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F1幻のホンダvs.トヨタの優勝争い。
撤退がなければ実現した夢の時間。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byLAT/AFLO
posted2020/04/30 11:50
2009年、ダブルチャンピオンに輝いたブラウンGP。ロス・ブラウンは年間王者に輝いたジェイソン・バトンらと喜びを分かち合った。
撤退ギリギリで踏みとどまったトヨタ。
そのブラウンGPの活躍を特別な思いで見ていたのが、トヨタのスタッフだった。
トヨタもまたリーマン・ショックの後遺症に悩まされていた。ホンダが撤退した後、トヨタも撤退する可能性があったが、最後の最後で踏みとどまった。それだけに'09年に懸ける思いは強かった。
それは、トヨタにも勝てるマシンがあったからだ。開幕戦では予選後に車両違反があったため、レースはピットレーンからのスタートとなったが、ブラウンGPに劣らぬ速さで3位でチェッカーフラッグを受けた。ブラウンGPとトヨタはその後もマレーシアGPやバーレーンGPで優勝争いを繰り広げ、'09年のF1シーズン前半戦を盛り上げた。
見たかったホンダとの優勝争い。
もし、ホンダがF1から撤退していなければ、'09年はF1の歴史の中で、初めて日本のチーム同士で優勝争いを演じるという日本のモータースポーツ・ファンにとって、最高のシーズンになっていたはずだった。
しかも、ブラウンGPは'09年にダブルチャンピオンに輝いたことを考えれば、'09年にホンダがその栄光を手にしていた可能性は高かった。そうなっていれば、日本のチームとして初の快挙だった。
トヨタはこの年、ブラウンGPの前に何度も優勝を阻まれ、最終的に未勝利に終わってしまうが、翌年以降に向けて、優勝するチャンスは大いにあった。'09年の最終戦アブダビGPではレース後、トヨタの首脳陣が珍しく人目も憚らず泣いていた。その意味を、私たちは3日後に知る。ホンダらに続き、トヨタも'09年シーズンをもってF1からの撤退を発表した。