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関根潤三さんとの中継は愉しかった。
実況デビューの日の優しさと名台詞。

posted2020/04/12 11:30

 
関根潤三さんとの中継は愉しかった。実況デビューの日の優しさと名台詞。<Number Web> photograph by Kyodo News

解説者としても人気を博した関根潤三さん。2003年には野球殿堂入りも果たした。

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田中大貴

田中大貴Daiki Tanaka

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Kyodo News

「今日は打つよ、キヨは。1打席目だね。打席へ向かうときの歩幅が違う。打つときの歩幅だよ」

 忘れもしない2004年6月4日、明治神宮野球場。読売ジャイアンツに在籍していた清原和博氏の2000本安打達成試合。フジテレビ入社2年目の僕は、人生初の実況を担当しました。

 1999本のヒットを積み重ねてきた清原氏の大記録達成となるかも知れない試合。プロ野球界が注目する中で、極度の緊張感から放送席内で震える僕に、解説の関根潤三さんがオンエア直前に声を掛けてくれました。

「田中君ね、大丈夫だから。キヨは1打席目に打つから。達成した時の実況のセリフを1打席目に考えておきなさいね」

 すぐさま、どうしてですか? と聞き返すと関根さんはこう答えます。

「今日はね、練習の時から歩幅が違ったからね。打席に向かう時も見て御覧なさい。キヨの良い時は歩幅が違うから。あとはね、グランドを踏みしめる力も違う。だから打ちますよ、あっさりと」

 そして、見事に清原氏はヤクルトスワローズの先発べバリンの変化球をセンター前にはじき返した。まさに1打席目のことでした。

どうやったら緊張がほぐせるか。

「打球はセンターへ。清原和博、2000本安打達成。満身創痍の身体を揺らしながら、グランドを噛みしめ、一塁キャンバスに辿り着きました!」

 この日の、あの瞬間だけは、自分の実況セリフを今でも忘れず、鮮明に覚えています。

 試合後、緊張から解き放たれた自分にベテランの中継スタッフが教えてくれました。

「田中大貴が実況デビュー戦と聞いて、関根さんがどうやったらあなたの緊張をほぐせるか考えてくれてたんだよ。清原さんが1打席目に2000本安打を放つという予想を放送前に先に教えてくれたのは関根さんの優しさ。あの方らしいよ、本当に」

 相手を慮る、細やかな心遣い。

 おそらく僕は中継スタッフにこの事を教えてもらわなければ、関根さんの心遣いに気付けていなかったでしょう。関根さんの人間力の高さ、懐の深さと野球眼を感じた16年前の放送席でした。

【次ページ】 心地よかった「関根ワールド」

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