きっかけはシャーフ元監督。

　いまでこそ鍼灸師による治療はドイツでも少しずつ浸透してきている。しかし、日本人鍼灸師がドイツのプロクラブで契約を勝ち取るというのは、まだまだ簡単なことではない。

　首脳陣からの理解、選手からの信頼もなければならない。黒川がフランクフルトで働けるきっかけを作ってくれたのは、元監督のトーマス・シャーフだった。

　彼が日本人ジャーナリストの小谷泰介さんと友人で、そこからつながっていったという。ブレーメン監督時代には鈴木友規がブンデスリーガのクラブでは最初の日本人鍼灸師として働いていたが、それも小谷さんとシャーフ元監督の縁があったからだ。

「鈴木さんとは知り合いですが、彼がブンデスに入った最初の日本人鍼灸師だと思います。彼の前にも、ドイツやスペインで日本人が何回もチャレンジしていました。契約ギリギリのところまでいくことが何回もあったそうです。だけど、なかなかうまくいかなかった。ようやくシャーフさんの力添えもあって鈴木さんが仕事を始め、その後、僕も同じような流れでフランクフルトに。僕の後、ハノーファーにも日本人が入りました」

　シャーフは鍼灸の力を認め、行く先々でスタッフに迎え入れた。黒川は小谷さんと知り合い、仲良くなり、小谷さんの鍼灸スポーツプロジェクトで人員募集されたときに、手を挙げた。いろいろな縁がつながって現在に至る。

最初からクラブはポジティブだった。

　フランクフルトのキャンプでテスト採用され、本契約を勝ち取ることができた。監督のゴーサインが出ただけでは仕事は決まらない。どれだけ「鍼灸は素晴らしい」と熱弁しても、首脳陣や選手が少しでも疑いを持てば治療も進まない。

　その点、フランクフルトでは最初から比較的快く受け入れてもらえたと黒川は述懐する。

「初めのキャンプからトップチームに入れてもらい、治療もスムーズにできました。……いまでも週に1回、2回は選手以外のスタッフにも治療をすることがあり、チームのなかではうまくくいっています」

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