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<宿命の絶対王者>
羽生結弦「“一番の僕”と戦い続けて」
posted2020/04/02 08:00
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Asami Enomoto
果てなき向上心と、勝利への強い渇望。その2つが、才能溢れる若きスケーターをいつしか絶対王者と呼ばれる存在へと変えていた。今年2月に四大陸選手権で初優勝し、主要国際6大会を完全制覇する「スーパースラム」を男子で初めて達成。頂点を極めながら、なお追い求める理想像とは――。(Number1000号掲載)
今年2月、羽生結弦は新たな偉業を達成した。四大陸選手権を初制覇し、主要国際大会すべてのタイトルを獲得する「スーパースラム」を男子で初めて達成したのだ。羽生は「勝つ」という言葉に自身の魂をこめてきた。表彰台の一番上に立ち続けることの喜びと重圧を、誰よりも知っている。
初めて「世界一」をかけた大会に出場したのは14歳のとき。全日本ジュニア王者として自信満々で向かった2009年世界ジュニア選手権で、スケート人生が変わった。トリプルアクセルでミスが出て12位になると、インタビュー中も独り言で「もう! 跳んだと思ったのに!」と地団駄を踏む。これほどまでに悔しがる選手を見たことがないというほど、感情を爆発させていた。
「本当に特別な試合で、僕は変わりました。強くなりたいと心から願いました。上位の選手たちの練習を見ていて、足りなかったのは精神的な部分です。練習での限界の設定が変わりました。1秒でも多く滑るというよりも、1個でもジャンプを成功するように、という気持ちになりました」
多くのアスリートが、長時間練習することで「こんなに頑張ったんだから試合でも大丈夫」と言い聞かせようとする。しかし試合の一発で成功させるために必要なのは、練習量ではなく、成功率だと感じたのだ。