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<ロッテ加入決定・再録記事>
鳥谷敬の実像は早大時代から不変。
いつもいる、というのは尊いことだ。
posted2020/03/10 13:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
阪神タイガース・鳥谷敬内野手がプロ野球史上50人目の“2000本”を達成した。
2004年に早稲田大学から阪神に入団して、今年で14年目。大ベテランである。
2年目の2005年からは、毎年一軍の全試合に出場して守りの要の“ショート”を守り、バットを握ってはクリーンアップもつとめて、押しも押されもせぬ「タイガース」の顔。
今の言葉でいえば、“レジェンド”ということになるのだろうか。
2015年からは年俸4億円の5年契約を結んで、事実上の「生涯・阪神」を宣言。チームの至宝として、今季も連日、三塁手のレギュラーとして奮戦を続けている。
阪神での14年間、2000本もの安打を放ち、遊撃手としては「ゴールデングラブ」を4回も獲得してさんざん活躍してきたはずなのに、あの大沢たかお(俳優)そっくりの顔はよく覚えていても、私は鳥谷敬の“声”を知らない。いや、どこかのヒーローインタビューか何かで聞いたことはあるのだろうが、まったく覚えがないのは、どうしたことか。
そういう方、実は意外と多くいらっしゃるのではないだろうか。
近所の居酒屋にいる、寡黙な主人のような。
毎日のように通う近所の居酒屋。
のれんをくぐるたびに、季節に応じた絶妙な料理を供してくれるご主人の、顔はだれでもよく見知っているが、その声は「いらっしゃい……」のひと言も聞いたことがない。そういう“達人”が、たまにいらっしゃるものだ。
早稲田大学当時の鳥谷敬のことは、よく覚えている。
野球部の後輩ではあるが、会ったことはない。
今もプロ野球、社会人野球で変わらぬ活躍を続けている“腕利き”たちがズラリと居並ぶチームの中で、ことさらキラキラ輝いていたわけでもなく、いつも黙々とひたむきにバットを振り、ボールを追っていた記憶しかない。
東京六大学リーグ戦4連覇を続けていた頃のチームだから、メンバーはそりゃあすごかった。