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元なでしこの永里亜紗乃が語る
姉・優季とのライバル関係。 

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph byYuki Suenaga

posted2020/02/05 11:00

元なでしこの永里亜紗乃が語る姉・優季とのライバル関係。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

小さな目標を達成していくことで。

 2012年、19得点をあげた時は、1試合1得点を自分の中での目標にしていました。そのための努力を少しずつ重ねて、割とコンスタントに目標が達成できたのが、自分への自信につながったし、次に何をしたらいいのかと考えられるようになったんだと思います。

 試合だけでなく、1日の目標も立てていました。1試合1得点というのは1週間に1回じゃないですか。それとは別に1日の目標を立てるんです。練習でイメージ通りのシュートを打つとか、味方と連係してシュートを決めるとか、そういう小さな目標を毎日1個ずつ達成していく。

 目標を持たずに淡々と、なんとなく過ごしていたときって、楽しいけれど、成長はなかったと思うんです。1カ月、1年と見たときに、何ができるようになったか、どこが伸びたかと考えると、前の年とあまり変わっていなかった。けれど、週単位、月単位で目標を立てて、その上で1日の目標を立てていくようになると、自分の位置がはっきりと見えるようになる。もちろん目標をクリアできない日もあるけれど、小さな目標を立てることで、自分のやるべきことが見えやすくなったと思うし、そういう目標の立て方が自分には合っていたと思います。

サッカーをこんなに楽しめたのは姉のおかげ。

 2013年に姉と同じドイツのクラブチームに移籍して、2015年には念願のワールドカップで代表入りもできました。そこで学んだのは、トップレベルになると一人一人がしっかり考えを持っているし、チームではあるけれど、個人の戦いでもあるんだということ。例えば、トップチームでは、チームメイト同士がピッチの中ですごく言い合ったりするんですよ。最初は喧嘩をしているように見えたんですけど、ピッチの外に出たらみんな笑顔になる。感情的に怒っているのではなく、本当に試合で勝ちたいという思いがあるから、熱くなれる。本気じゃなかったら、まあいいか、で終えられるじゃないですか。本気というのはこういうことなのかと思ったし、大人の集団はしっかり自分で考えて、意見を言えたり、聞けたりするものなんだとすごく勉強になりました。

 やっぱり黙っていても何も始まらないんですよね。特に海外では、勝ちたいという思いを表現しなければ、試合に出たくないのかなと思われたり、マイナスしかない。だから昔の自分にもしアドバイスができるとしたら、もっと自分の思いは伝えていいんだ、世界は広いんだって教えてあげたいですね。

 私は2016年で引退をしましたけど、今思えば、サッカーをこんなに楽しめたのは姉のおかげだと思っています。姉がいなかったら、もっと早くやめていたでしょうね。ワールドカップで同じ舞台に立ちたいという思いが、私をここまで成長させてくれたと思っています。それに、今では二人で旅行にもいくほど、すごくいい関係なんですよ。

永里亜紗乃

永里 亜紗乃Asano Nagasato

1989年1月24日、神奈川県生まれ。兄の影響で小1の頃に1学年上の姉・優季と共にサッカーを始める。'07年に下部組織から日テレ・ベレーザに昇格し、'08年U-20女子W杯に出場。'12年は国内のカップ戦でMVPを獲得しチームの優勝に貢献。リーグ戦ではランキング2位の19得点を挙げ、ベスト11と敢闘賞を受賞。'13年-'16年はドイツでプレーし、'16年4月に現役を引退。'18年に結婚し、現在は一児の母として奮闘しつつ、女子サッカーの解説者としても活動中。

ナビゲーターの俳優・田辺誠一さんがアスリートの「美学」を10の質問で紐解き、そこから浮かび上がる“人生のヒント”と皆さんの「あした」をつなぎます。スポーツ総合誌「Number」も企画協力。

第93回:永里亜紗乃(サッカー)

2月7日(金) 22:00~22:24

元女子サッカー日本代表の永里亜紗乃さんは'15年には姉の優季さんと共にW杯メンバーに選出。姉妹出場は日本サッカー史上初の快挙でした。しかしどんどん先を行く姉に複雑な感情があったそうです。当時を振り返りつつ、'16年に引退し一児の母として子育てに奮闘する彼女の「今」にも密着します。

第94回:井口資仁(野球)

2月14日(金) 22:00~22:24

プロ野球・千葉ロッテマリーンズの井口資仁監督は大学時代にアトランタ五輪で銀メダルを獲得。ダイエー(現・ソフトバンク)で日本一、MLBでは世界一を経験しました。日本球界に復帰し、ロッテで日米通算2000本安打を達成。'17年に引退し直後に監督に就任。チーム論・リーダーシップ論、勝つために心がけている彼の美学に迫ります。

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