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ジーターの殿堂入りに投じた1票と、
19年前に聞いた「涙の電話」。
posted2020/01/29 11:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Katsushi Nagao
ボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイパークの、狭苦しいビジターチームのクラブハウスの入り口近くに、彼はいた――。
デレク・ジーター。つい先日、「ほぼ満票」で米野球殿堂入りしたニューヨーク・ヤンキースの遊撃手だ。
それは2001年の夏、当時ワールドシリーズ4連覇を目指していたヤンキースがア・リーグ東地区でレッドソックスを引き離し、独走態勢を固め始めた8月下旬のことだった。
当時、主戦場にしていた雑誌の企画でインタビューを申し込んだ。テレビで見ている時はさほど大きく感じない身長190センチは、間近で見ると思いのほか迫力があった。いかにも忙しそうにロッカーの荷物を片付けていた彼は、恐ろしいほど蒼く澄んだ瞳をこちらに向けて、こう言った。
「今は時間がないんだ」
体よく断られた。当時はまだ、松井秀喜外野手がヤンキースのユニフォームを着る前で日本人のメディアは他に誰もいなかった。強面の広報には「グッドラック」と言われていたが、それはつまり、「彼と話したい記者は大勢いるから、難しいぜ」という意味だった。
実際、こちらが様子を窺っていると、手慣れたヤンキースの番記者がタイミングをうまく見計らって次から次へとジーターと話すので、ハンパない失敗感覚に襲われた。
「今なら時間あるよ。5分ぐらいなら」
そんな気分が晴れたのは、監督会見がダッグアウトで始まり、番記者たちが一斉にいなくなった時だった。室内での打撃練習から帰ってきたジーターが居心地悪そうに立っているこちらに気づき、「今なら時間あるよ。5分ぐらいなら」と言ってくれたからだ。
結論から言うと、ひどいインタビューだった。
4連覇を目指すチームの現状について。ノーマー・ガルシアパーラ(当時レッドソックス)や「A・ロッド」ことアレックス・ロドリゲス(当時レンジャーズ)と並ぶ攻撃的遊撃手の1人と言われることについて。宿敵レッドソックスとの対戦について……等々。
きっと今まで何度も聞かれたであろう質問を自分なりに考え、角度を変えて尋ねたつもりだったが、まったくのこちらの技量不足で既出のインタビュー以上の返答は出てこなかった。