フランス・フットボール通信BACK NUMBER

同性愛者であることで抹消、逮捕。
あるサッカー審判の地獄と再生。
 

text by

ポリーヌ・オマンビイク

ポリーヌ・オマンビイクPauline Omam Biyik

PROFILE

photograph byFrance Football

posted2020/01/30 18:00

同性愛者であることで抹消、逮捕。あるサッカー審判の地獄と再生。<Number Web> photograph by France Football

ニダル・ベラルビ氏。彼の人生が大きく変わってしまったのは2013年のことだった。

チュニジアに戻ることはもうない。

「フランスにはそれまでも何度か行ったことがあった。でも、今回は、戻ることのない一方通行の旅であること、チュニジアに足を踏み入れることは二度とないことも分かっていた」

 家族の中で唯一の支えであった母親との連絡も絶たれ、フランスでの最初の数カ月はベラルビにとって「とても厳しかった」。支えになったのは彼が愛し、情熱を傾けたレフリーという職務だった。

「人生をやり直すうえで、本当に助けになった」とベラルビは回想する。

「僕は優れたサッカー選手ではなかった。子供のころ、友だちと遊んでいるときも、誰も僕に自分のチームに入れとは言わなかった。『ニダル、君はレフリーが一番向いているよ』と言われて、自分でも選手としては下手くそだけれども、レフリーならば優秀だとずっと思っていた」

パリのアマリーグが救いの手を。

 彼を迎え入れたのはフットボール・ロワジール・アマトゥール(FLA=イルドフランス、パリ近郊地域のアマチュアサッカー組織)で、パリに独自のリーグを持っていた。

「会長がこう言ってくれた。『ニダル、ありのままの君を護る。同性愛者であろうとなかろうと関係ない。君の人生は君だけのものだ』と。彼の言葉にとても救われた。あのような寛容さに触れることは、これまでになかったからね(訳註:FLAのホームページには、『FLAはニダル・ベラルビをサポートする』という宣言が記されている)」

「われわれはあらゆる種類の差別と闘う」と、FLAのファミ副会長は言う。

「それはニダルの考え方とも一致する。彼は迫害され、絶望的な恐怖の中を生きてきた。それらに耐えた彼にとって今、重要であるのは、生きるための新たな力を見出すことだ。彼はレフリーを天職としてすべてを捧げてきた。その能力は誰の目にも明らかだ。FLAのリーグで彼にレフリーをしてもらって、われわれも多くの恩恵を受けた」

 チュニジアのLGBT(レズビアンとゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の権利を守る組織である『Shams』のスポークスパーソンによれば、ベラルビは正常な日常生活を再び営むようになりつつあるという。

【次ページ】 不寛容な攻撃を受けることも。

BACK 1 2 3 4 NEXT
ニダル・ベラルビ

海外サッカーの前後の記事

ページトップ