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監督との不和、低迷を乗り越えて。
原口元気を支えた「カラ元気」。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/01/27 19:00
10番を背負い、積極的にコミュニケーション。原口元気はハノーファーを文字通り引っ張る存在だ。
サポーターから何度も受けた拍手。
シュツットガルト戦での原口は、サポーターから何度も拍手を受けていた。
選手がスタジアムを熱狂させる要素は、華麗な技だけではない。サポーターが感じたいのは、選手たちの熱意のほとばしりだ。相手より一歩でも速く、一瞬でも早く、動き続ける。タッチラインを出そうなボールをスライディングでかき出そうとする。セカンドボールをつないでマイボールにする。相手のシュートを身体全体で跳ね返す。すべてが、チームに貢献する大事なプレーなのだ。
そんなプレーを、原口は中心選手として見せていた。誰よりもユニホームを泥で汚し、仲間に、サポーターに背中ではっきりと戦う姿勢の大切さを伝えていた。そんな彼の姿を見て、3万5200人の観衆が詰めかけたHDIアレナが、どんどん熱気を帯びていった。
とても印象的だったのが、85分のプレーだ。
中盤センターでボールを運ぼうとしていた相手CBマルク・オリバー・ケンプフを、抜群のタイミングのスライディングタックルでブロック。仲間がボールを拾ったのを見るや、すぐに左サイドへ走り込む。そしてパスを受けると、深い位置まで持ち込んで左足クロスを入れた。
ゴール前に味方がいなくてシュートには至らなかったが、一瞬も足を止めず、連続で好プレーを見せる姿に迷いは感じられなかった。
「練習量半端ないです。でも」
その視界は、綺麗に晴れてきている。
年が明け、1月28日から再開する後半戦が楽しみではないかとふると、「そうですね。楽しみというか。新しいものにチャレンジしていけると思う」と答え、こう続けた。
「いまの監督めちゃめちゃ厳しいので、練習量半端ないですよ。本当にくたくたになるまで、くたくたになるっていう表現は正しいかどうかわからないけど、めちゃくちゃきつい監督。準備期間のトレーニングがちょっと恐いですけどね。でもそれも自分自身にとって必要だと思っています。このチームも徐々に強くなってきていると思うし。楽しみたいです」
大変さを口にしながらも表情は明るく、笑顔になるときもあった。
柔らかく笑うのは、充実感の表れなのだろう。やるべきことが見えてきていて、ケナン・コジャッチ監督からの信頼を感じ、新しいポジションでの新しい役割にチャレンジできる喜びがある。そんなサッカーと向き合えるのであれば、厳しい練習は望むところなのだ。
「まだ諦めていないので、後半戦は上を目指して頑張ります」
原口はそう言って、最後に“らしい強気”を見せてくれた。