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<エールの力2019-2020 vol.6>
鈴木啓太「今も心の中でこだまする大声援」 

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph byJ.LEAGUE

posted2020/01/27 11:00

<エールの力2019-2020 vol.6>鈴木啓太「今も心の中でこだまする大声援」<Number Web> photograph by J.LEAGUE

失点のショックを振り払う大声援。

 だが次の瞬間、静寂は破られる。

 サポーターたちが、失点のショックを振り払うように大声で歌い始めたからだ。

「苦しい中で、あの声援がとてつもなく大きな力になったことは間違いありません。浦和サポーターは、いいときはもちろん、悪いときでも一緒になって戦ってくれます。あの試合がまさしくそうでした」

 サポーターの大声援に奮い立ち、浦和は力強く巻き返す。

 前半終了間際に柏木陽介がゴールを決め、そして63分にマルシオ・リシャルデスが逆転PKを決める。

「マルシオのPK、一度は決まったのにやり直しになったんです。正直、いやな気がしました。緊張の面持ちを浮かべた浦和サポーターたちがいるゴール裏に向かって、マルシオがもう一度蹴る。あのときは、もちろんぼくも緊張していました。数秒後にキックが決まり、その瞬間、ドーン! と大歓声が沸き起こりました。ものすごい瞬間でした」

「ほっとして、泣いてしまった」

 2-1。苦しい戦いを乗り越え、勝利をつかんだ鈴木さんは仲間とともに真っ赤に染まったゴール裏へと挨拶に向かった。

「福岡のスタジアムは、埼スタよりも観客席が近い。ですから、一緒になって戦ってくれたサポーター、一人ひとりの表情が目に飛び込んできました」

 彼らの表情はにじんで見えた。なぜなら、鈴木さんが泣いていたからだ。

「それまで優勝がかかった大一番に負けて、悔し泣きしたことはあります。でも、ほっとして泣いてしまったのは、あの試合だけです。絶対にJ2に落としてはいけないクラブを、なんとか残留させられる。その安堵感で涙が出てしまったんです」

【次ページ】 無音だった埼スタで感じたこと。

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