Sports Graphic Number WebBACK NUMBER
<エールの力2019-2020 vol.6>
鈴木啓太「今も心の中でこだまする大声援」
posted2020/01/27 11:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
J.LEAGUE
浦和レッズひと筋16年。アジア屈指と評される地響きのような大声援を浴びてきた鈴木啓太さんには、忘れられないふたつの試合があるという。
意外にもそれらは、2006年のJ1初優勝やその翌年のACL制覇といった栄光の記憶ではない。
ひとつはJ2降格の危機に直面した、'11年11月26日のアビスパ福岡戦。もうひとつは無観客となった、'14年3月23日の清水エスパルス戦だ。この2試合について鈴木さんは、「タイトルを獲った、どの試合よりも強烈に残っている」と語る。
主将として直面した残留争いの大一番。
残留争いに巻き込まれた'11年の浦和は33節、最終節を残してアウェーの福岡戦に臨んだ。
このときの心境を鈴木さんが振り返る。
「このシーズンはキャプテンになって3年目、とにかく苦しかったことだけ覚えています。ぼくはJ2時代の浦和に入団して、そこからアジア王者になるまでチームは強くなった。でも、次第に落ち始めたわけです。強かった時代を知る選手が次々と抜けて、頼れる選手がいない中で“とにかく浦和はJ2に落としちゃいけない”、その一心だけで戦っていました」
勝てば残留がほぼ決まり、負ければ逆に崖っぷちという大一番。敵地レベルファイブ・スタジアムは、埼玉から駆けつけた浦和サポーターでスタンドの半分以上が真っ赤に染まった。
ところが浦和は、あろうことか先制点を許してしまう。
ホームの福岡は、すでに降格が決定。失うものがない彼らの勢いに浮足立ってしまったのだ。
失点の瞬間、鈴木さんは不思議な感覚に捉われた。
「スタジアムから音が消えた気がしました。スタジアムを揺さぶるような浦和サポーターの大声援が、失点したことで途絶えてしまったんです」