松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
競技生活3カ月で日本代表選手に!?
当時の伊藤の練習方法に修造、困惑。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/01/14 11:00
パラテコンドー選手の伊藤力さんの話を聞けば聞くほど困惑していくことに……。
「初出場でいきなりジョコビッチとやるような」
パラテコンドーを始めてわずか数カ月でアジア選手権に出場。トーナメントの1回戦で当たったのは、なんと世界ランキング1位の選手だった。伊藤さんはそこでどんなことを感じたのだろう。
伊藤「アジア選手権はフィリピンで行われたんですけど、海外に行くのもハワイに行って以来だし、とにかく暑かったのを憶えてます。トーナメントはランキング順に振っていくので、僕みたいな新参者は当然、強い選手と組まされて、1回戦で当たったのが世界ランク1位のモンゴルの選手。8人が出場して、僕は1回戦負けでした」
松岡「そりゃそうですよ。いきなり世界1位でしょ。勝てるわけがない」
伊藤「テニスなら初出場の選手がいきなりジョコビッチとやるようなものですからね」
松岡「そんな感じですね。実際に、試合内容はどうでしたか」
伊藤「力以上のものを出そうとして、体が動かなかったです。当時のルールで3ラウンド戦った時点で12点差がついたらコールドだったんですけど、まさにそれに当てはまりました。確か、13-1だったかな。僕が獲ったその1点も、相手が勝手に倒れてもらった点数でした」
松岡「その時はどう思ったんですか。もうパラテコンドーをやめようと……」
伊藤「いや、練習を始めてまだ3カ月で、まともに練習したのは10日もない。それで世界ランク1位の選手に勝つなんて絶対に無理な話で、そこまでショックではなかったです。むしろ、これから4年間頑張ったら、この選手に勝てるんじゃないかって。僕はそう思いました」
松岡「そうとう前向きですね。どっからその自信が来るんですか」
伊藤「そのモンゴルの選手よりも、事前の国内合宿でやった(五輪を目指す日本代表候補)選手の方がずっと強かったんですよ。そういう環境でこの先やらせてもらえるのであれば、どんどん実力を伸ばしていけると考えたんです」
松岡「より高いレベルに身を置いて、実力を伸ばしていこうと。もうその時はすでに東京開催は決まってますよね。いつ腹を括ったんですか」