松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
競技生活3カ月で日本代表選手に!?
当時の伊藤の練習方法に修造、困惑。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/01/14 11:00
パラテコンドー選手の伊藤力さんの話を聞けば聞くほど困惑していくことに……。
「なかなかのブラック企業だなって(笑)」
松岡「ちょっと、どうなってんの! いったい誰に教わるんですか」
伊藤「パラテコンドーのコーチが2人いて、選手は僕を含めて3人。僕以外の2人は結局、パラの資格に当てはまらなくて、残ったのは僕1人でした。2泊3日の合宿の最後に面談をして、4月にアジア選手権があるから頑張れと」
松岡「えっ、整理すると、1月の合宿で初めてパラテコンドーを習って、3カ月後にはアジア選手権に出るんですか。その状況をどう捉えました」
伊藤「なかなかのブラック企業だなって(笑)。でも、パラの資格に当てはまるのが僕しかいないから、とりあえず出てもらいたいと。北海道に帰って奥さんに話をしたら、さすがに驚いてました」
松岡「そりゃ驚きますよ。岡本さんもいないし、選手もいないし、いきなりアジア選手権って。練習はどうしたんですか」
伊藤「とりあえずランニングを追加しました」
松岡「へへへ。もう笑って良いですか。何やってんの。そんな日本代表いますか」
伊藤「それと、メルカリでミットを1本買いました。奥さんに持ってもらって、家でこうやって(蹴る真似をする)」
「韓国もパラテコンドーでは後進国なんです」
松岡「普通は協会が映像を用意したり、課題を出したり、北海道へ帰ったらこの道場に行ってくださいとか、指示を出すものでしょ。それなのに、奥様にミットを持たせて、そこに向かって蹴っていたんですか」
伊藤「たまにパンッて良い音がすると気持ち良くて。奥さんも『やらせて』って(笑)」
松岡「そんなところからスタートしたんですか……。テコンドーは韓国のお家芸で、日本を含めたアジアが強い印象がありました」
伊藤「ところが、韓国もパラテコンドーでは後進国なんです。なぜかというと、韓国も日本も障がい者スポーツ自体の取り組みが遅れているから。支援もそうだし、理解についても追いついていない。4月のアジア選手権も、集まった選手は8人だけでした。韓国代表も1人いただけです」
松岡「でも、さすがにその韓国の選手は強かったでしょ。韓国にはテコンドーの道場がいくらでもあるし、腕をケガしてパラに回った選手もいるはずです」
伊藤「それがですね、その韓国の選手は全然強くなかったです。2017年に僕の方が勝ちました」
松岡「ええっ(困惑)。サッカーを趣味でやっていた人が勝っちゃったんですか」
伊藤「勝ちました。韓国も強い選手が出てきたのはこの1年くらいです。その当時の映像が確か、スマホにありますね。見ますか?」