松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
競技生活3カ月で日本代表選手に!?
当時の伊藤の練習方法に修造、困惑。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/01/14 11:00
パラテコンドー選手の伊藤力さんの話を聞けば聞くほど困惑していくことに……。
「蹴り方がまだサッカーです」
そう言って、伊藤さんがスマホを取り出す。映像が残されていたのは、アジア選手権の前に国内で行われた日本選手権だ。伊藤さんがまだ奥様と2人でミット打ちを行っていた頃のこと。松岡さんが食い入るように画面を見つめる。
伊藤「これは日本選手権の前座で、僕たちがデモンストレーションとして試合をしたときの映像です。相手は総合格闘技の経験があって、でも親指がないだけなのでパラの資格に当てはまらなかった選手です」
松岡「なかなか試合が始まりませんね。審判も含めて、みんな迷っているみたいです」
伊藤「確かに、僕らもまだ、ルールがよくわかっていなかったですから」
松岡「始まった! なんでしょう、とにかく蹴ってますね。蹴り方がまだサッカーです」
伊藤「笑って良いですよ。まだほとんど習っていないから、僕も利き足の右ばかりで蹴ってます」
松岡「あっ、今、半回転しました」
伊藤「あれだけは1度、どこかでやってやろうと思っていて。後ろ蹴りです」
松岡「今のはテコンドーという気がしました。あれ、急に終わった?」
伊藤「終わりました。あくまでもデモンストレーションなので。1ラウンドで終了です」
「それもひどくないですか」
松岡「何から聞けば良いだろう。伊藤さんはサッカー以外に何かスポーツはされていたんですか」
伊藤「小さいころに剣道と、テニスも。少しだけですけど」
松岡「剣道。その時の間合いの詰め方が役に立ったり」
伊藤「いや、してません。ただただ必死に蹴るだけでした。何をやらされているんだろう、とちょっとは思いましたね。選手はその後すぐに試合なので、誰も僕らの試合を見ていないし、観客もまばらで、拍手をしてくれたのは来賓のみなさんだけ。それこそ障がい者が頑張っているなという拍手だったと思います」
松岡「さすがにこの試合には岡本さんは来てましたか」
伊藤「いや、まだ会ってません。このデモンストレーションの後、3月に合宿があったんですけど、そこで初めてお会いしました。当時の会長さんともその時にお会いして、いきなり試合をしてみろと。テコンドーで五輪を目指している選手といきなり試合を組まされて、ボコボコにやられました」
松岡「それもひどくないですか」
伊藤「会長としては、どれだけやる気があるのかを見てみたかったみたいです。蹴られても、蹴られても、戦う姿勢は見せた。そしたら会長が『頑張れよ』って」
松岡「認めてくれたんだ。僕だったらそこでもう無理と、きっとギブアップしたと思うんです。力さんには勝算というか、今後強くなれるという自信があったんですか」
伊藤「自信はないですね。逆に、日本代表になるにはこれくらいできないとダメなんだというのが分かって、それは良かったと思います」