ぶら野球BACK NUMBER
元木大介と巨人の30年と大森剛。
アイドル、クセ者、ヘッドコーチ。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byKyodo News
posted2019/12/22 11:40
元木大介が原巨人のヘッドコーチとしてフィットする。こんな未来を思い描いた野球ファンはどれほどいることだろう。
アイドルから“クセ者”へ。
だが、元木はこのクレイジーとも思える補強の連続にも負けず、'97年以降、6年連続100試合以上出場とその地位を確立する。
'98年、'99年にはオールスターファン投票選出。キャリアハイは'98年の打率.297、9本、55打点、OPS.799。この年の得点圏打率.398はリーグトップの勝負強さだった。
チームは4番バッタータイプばかり集めていたから、逆に生き方を変える覚悟ができた。今のままじゃ勝負できない。考え方を変え、プレースタイルを変え、やがて元木は長嶋監督から“クセ者”と重宝されるようになる。
今も巨人は外部補強が若手のチャンスを奪うとよく言われる。だが、20年前のジャイアンツ・アズ・ナンバーワンの補強全盛期において、右打ちをマスターし、時に外野もやるガッツを見せ、執念深く食らいついたのが選手時代の元木だった。
高校時代はアイドルと呼ばれ、選手時代は練習嫌いがネタになり、引退後はラーメン屋でしくじり……じゃなくてタレント業をやっていたイメージとは裏腹に、いわば巨人の選手らしくない泥臭さで巨人の中で生き残ってきたわけだ。
「ユニフォームは着たいですよ、野球人だから」
2年前のインタビュー時に最も印象深いのは、古巣の若手選手について熱く語る姿だった。
「うん、不甲斐ないよね。チャンスだらけじゃない。セカンドがいないって言ってるのに何してんだろうって。なんでもっとガムシャラに泥まみれにならないのかな。3年間くらい泥まみれでやっちゃえよって。そうしたらレギュラー獲れると思うんだけどね。ちょっと1軍で出るとスター選手みたいな感じになってるから」
そして、インタビューの最後に「俺がやりたいって言ってやれる職業じゃないから」と前置きした上で、こう続けた。「当然、ユニフォームは着たいですよ。野球人だから。今まで自分がやってきたこと、見たことを後輩たちに伝えていく。時代が違うって言っても野球は一緒なんだから」と。
そう言えば、あの取材は2017年の6月中旬だった。ちょうど由伸巨人が球団記録の13連敗を喫した直後だ。
そして2019年、元木は内野守備兼打撃コーチとして14年ぶりに巨人へ戻ってきた。3度目の就任となる原監督は61歳、気が付けば阿部は40歳の大ベテランだ。長い時間が経った。そして、原巨人は苦労の果てに5年ぶりの涙のリーグVを達成、阿部は引退して来季はニ軍監督で再出発を切る。