スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
9年間の蜜月関係はもう戻らない……。
L・エンリケとモレノの悲しい別れ。
posted2019/12/19 08:00
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
Uniphoto Press
9年間――。それだけの歳月を共に過ごし、築き上げてきた信頼関係ですら、ふとしたきっかけで壊れてしまうことがある。
物事の転機は様々だ。いくつかの偶然が重なった末に生じた、ちょっとしたすれ違いや誤解によることもある。
厄介なのは、たとえどれだけ些細な原因であったとしても、それぞれの置かれた立場や状況によっては、わずかな亀裂が修復不可能な大きさにまで広がりかねないことだ。
スペイン代表監督の座を巡るルイス・エンリケとロベール・モレノの決裂は、まさしくその類のものだったのではないだろうか。
重要な役割を任せ続けてきたが。
2008年の夏。バルセロナBの監督として指導キャリアをスタートした“ルチョ(ルイス・エンリケの愛称)”は、分析力に定評があり、当時チームが所属していたセグンダB(実質3部)をよく知るロベールを第2監督に抜擢した。
ロベールはバルセロナの隣町オスピタレット・デ・ジョブレガット出身で、ルチョより7歳若い1977年生まれの指導者だ。選手としての華々しいキャリアはなく、監督としても当時はまだセミプロクラブを率いた実績しかなかった。
ルチョは、そんな無名の若者をプロの世界に引き入れると、以降ローマ、セルタ・デ・ビーゴ、バルセロナ、そしてスペイン代表と、自身が率いたすべてのチームで重要な役割を任せてきた。
それだけ厚い信頼を置いていただけに、今年の11月27日に行われたスペイン代表監督復帰会見で発した言葉は驚きだった。
「ロベール・モレノがスタッフから外れたことの唯一の責任者は私だ。我々の不和は9月12日、私の家で行なった話し合いで生じた。彼はEUROを指揮したい、その後に私の第2監督に戻りたいと言ってきた。
彼は野心家だ。それ自体は一般社会では評価すべきことだが、私には不誠実に映った。私なら絶対にそうはしないし、私のスタッフにそのような人間は望まない。私にとって、行き過ぎた野心は長所ではなく大きな短所だ」
彼はそう言って、9年間連れ添った相棒との決別を宣言したのである。