第96回箱根駅伝出場校紹介BACK NUMBER
「歴史を変える挑戦」目指す國學院大學。
大エース卒業の順天堂大学は総合力で勝負。
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箱根駅伝2020取材チームhakone ekiden 2020
photograph byYuki Suenaga / Nanae Suzuki
posted2019/12/20 11:00
「2区で僕がつなぎ、5区で浦野に……」
埼玉栄高出身のライバルたちの存在が、成長の原動力のひとつになったのは確か。ただ、最も刺激を受けてきたのは、同じ赤紫のたすきをかける浦野雄平(4年)だ。1年生から2人だけ上級生に混じり、一緒に汗を流してきた。ジョグ練習では浦野が120分ならば、125分こなした。1分でも1kmでも多く走るように心がけた。それでも、切磋琢磨する仲間は一歩先を進んでいた。2年生では1区で区間2位、3年生では5区で区間賞。箱根駅伝でもトラックでも、圧倒的な成績を残す姿を目の当たりにして、驚かされてきた。
「いつもすごいなと思っていました。僕が記録を残しても、すぐに塗り替えられました。超えたくても、なかなか超えられない存在」
しかし、今季は脱帽するだけではなかった。3月の日本学生ハーフマラソンで5位の浦野より先着して4位。トラックシーズンでも、出雲路でも、脚光を浴びたのは“第2の男”だった。
「これまでは絶対にかなわない相手だと思っていましたが、いまはそういう意識はないです。自信がつきました」
エースが弱くなったわけではない。むしろ浦野は5000m、10000mで自己ベストを更新し、秋の駅伝シーズンでも存在感は示したが、それ以上に土方の勝負強さが際立っていた。いざ箱根路でも主役として、期待が集まるのも自然の流れ。予想される区間配置は、エースが集う「花の2区」である。最後の舞台は整った――。
だが、本人は脇役を演じることもいとわない。國學院大の戦略として、5区の山上りがカギを握っていることを重々承知している。
「箱根駅伝は僕が2区でつないで、5区で浦野にすべてを持っていってもらいたい。往路のフィニッシュテープを切ってほしい。それが理想です」
主将としての責務も忘れない。
2区の区間賞を見据え、気持ちでは留学生にも負けるつもりはない。ただ、いまの力を踏まえた上で、目標設定は無理のない1時間7分30秒。区間上位を狙えるタイムではあるが、区間トップに立てるかといえば、微妙なラインだろう。状況次第で展開は変わるが、周囲のペースに乱され、失速するのは本末転倒。目標である往路優勝、総合3位を成し遂げることを最優先に考えているのだ。チームスローガンに掲げるのは「歴史を変える挑戦」。
主将としての責務を忘れたことはない。周囲に気を配り、切磋琢磨するエースの気持ちまで慮る。ときには仲間を厳しく叱咤するが、フォローも欠かさない。ベクトルは自分だけに向いていない。
「それが土方という男です」
走力と人間性を買って、3年時に大役を任せた前田監督は目を細める。指揮官が言わずとも、本人が一番役割を理解している。
「チームにとって、最善の走りをすることが大事だと思っています」
挫折を味わい、苦難を乗り越えてきたランナーは心身ともに強くなった。箱根駅伝のラストランは自らの力の証明よりも、チームのために全力を注ぐつもりだ。