彼女は《スーダンスポーツ界の象徴》となった。

　サルマもまた、現在の自分がどんな立場にあるかよく理解している。彼女は《スーダンスポーツ界の象徴》になったのだった。

　イケネが続ける。

「彼女はどこに行っても女性たちから祝福を受ける。そこまで愛されるのは、女性たちが彼女から大きな刺激を受けているからだ」

　とはいえ、彼女の戦いが終わったわけではない。

「スーダンの女子サッカーはとても遅れている」とサルマは言う。

「何とかしようという（政治的な）意志も財源もない。だからこそ基金が必要で、家族や社会は女性がサッカーをプレーすることを認めてほしい。それからスーダンサッカー協会の真摯な援助と支えは絶対的に必要だわ」

「私たちは平和的に事態を改善していきたい」

　その第一歩として、女子サッカーのリーグの創設と代表チームの立ち上げが近く実現しようとしている。しかしそれだけでは、まだサルマ夫妻の不安は払拭されないというのも現実である。

「彼女の存在を未だ認めない人たちがいるにせよ、私たちは平和的に事態を改善していきたい」とイキネは語る。

　サルマもこうつけ加える。

「どんな障害だろうと、取り除けないものはないと思っている。私はサッカーが好きだし、サッカーのためにこれからも惜しみなくこの身を捧げる。フラストレーションを感じることなく素晴らしい時を過ごせたと感じたときに、はじめて成功したといえる。そのときまでは……」

　現在、彼女は所属先を持たない。だが、目指すところははっきりしている。男女を問わずどこかの国の代表チームを指揮することである。その目標に向かい、これからも足取りは決してぶれることはないだろう。