ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
金谷拓実が松山英樹に続くアマ優勝。
「“心臓がない”みたい」な逞しさ。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKyodo News
posted2019/11/20 11:00
三井住友VISA太平洋マスターズで優勝した金谷拓実。アマチュア選手のツアー優勝は2011年の松山英樹以来、史上4人目の快挙だった。
優勝を争う先輩に「ぜんぜん驚かない」
金谷の2つ年下、日体大1年の中島啓太は中高生時代からしのぎを削ってきた。ナショナルチームではたびたび一緒に遠征に出向き、昨年のアジア大会団体で優勝。個人でも金メダリストになった19歳(現在)は、この御殿場でも最終日に63を叩き出した。3日目の金谷に続いて大会のコースレコードに並んでみせたのだから頼もしい。
中島の平均飛距離は301.88ヤードで全体3位。すらりと伸びた体躯から放たれるロングドライブも魅力だが、これまで何度も金谷の勝負強さを痛感してきた経験もある。
プロツアーで優勝争いをする先輩の姿に「(金谷が)初日に3オーバーと出遅れても……。なんなんですかね(笑)。もうぜんぜん驚かない」と思わず嘆息する。
「金谷さんは周りを見てしまう立場にいると思うんですけど、それで自分の100%のプレーを心がけているところが強いんだと思います。調子とスコアは比例しない。調子が悪くても、金谷さんには(優れた)アプローチとパターがある」
後輩・米澤が感じる「何か」の差。
ふたりと一緒に昨年アジア大会を制した米澤蓮(よねざわ・れん)は東北福祉大の2年生。今年5月の男子ツアー、ダイヤモンドカップでプレーオフまであと1打というところまで迫り、2位の成績を残した。
大学ではもちろんチームメイト。プロの大会でも一緒に出るときのウエアのコーディネートは金谷が決める。米澤は「プレースタイルも似ていると思うんですよ。そんなにどっちも距離が出るタイプでも、そんなに“ガンガン行く”タイプでもない」と先輩との共通点を挙げた。だから「似ているからこそ“何か”が僕には足りないと思うんです」と言った。
プロになってからの長いキャリアを考えれば、いつまでも見上げてばかりはいられない。言葉に焦燥感が滲む。
「その何かが分かれば……その何かが分からないから苦労しています。でも、一番いい手本が目の前にいる。金谷さんはすべてゴルフについて考えながらやっているという印象がある」
ゴルフはスイングや弾道の豪快さや美しさを競う採点競技ではない。「なぜか分からないけど、スコアは少ない」という強さは、このスポーツの勝敗を左右する本質だ。