ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
石川遼「もう“アラサー”ですよ」
今も消えない感謝と成長への意欲。
posted2019/12/10 19:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Kyodo News
ストレートラインの先でボールは重力に従った。
冬空に掲げた両手から離れたパターもまた、同じだった。
円形状の観客席に反響する声援。佐藤賢和キャディと強く抱き合い、プレーオフを戦ったブラッド・ケネディと握手を交わしたあと、彼はパンツの右ポケットに手をやった。
グリーンを修復するフォークを取り出し、もう一度キャディを抱き寄せたあと、腰をかがめてそれを地面に突き刺した。一連の歓喜の動作で傷つけてしまったかもしれない、足元の芝をいたわる仕草。興奮の渦から、ひとり切り離されたようなシーンが妙に印象的だった。
東京よみうりカントリークラブで行われた日本シリーズJTカップ。2019年シーズンの最終戦は、石川の年間3勝目で幕を閉じた。
「こんなこと言っちゃいけないけどね、もう“アラサー”ですよ」
28歳の誕生日を迎えた9月、石川はツアー会場で練習ラウンドに勤しんでいた。一昔前と光景が様変わりしていたのが、一緒にプレーしているのが彼よりも年下の選手たちばかりだったこと。
5年間在籍したPGAツアーから日本ツアーに戻り、2年が経過した。それは選手会の会長という職務を担う期間とほぼ同じでもある。
名手・伊澤から「言うことはないな」。
今季は春先にアクシデントがあった。5月初旬、不安視していた腰痛が中日クラウンズで限界を超えた。スペインに出張中だった個人トレーナーと国際電話を通じて相談し、2日目の朝にキャリアで初めてとなる途中棄権を決めた。同月末の賞金ランキングは100位を下回ったが、1カ月の休養を挟んで上位争いに加わった。
ターニングポイントをひとつ、と問われれば、石川は6月末に兵庫県で行われたJOYXオープンという試合を挙げる。1日18ホールだけで争われ、ツアー競技には該当しないが、例年数名のトッププロも出場するローカル大会。ケガから復帰直後の調整という名目もありつつ、石川はツアー16勝の名手・51歳の伊澤利光とのプレーを待ち望んでいた。
「なにか伊澤さんからアドバイスがもらえるかなと思ったんですよね。悪いところを出し切ったところを見てほしいと思った。だから、思い切って全力でやった。そうしたら伊澤さんは『言うことはないな』って。『次の試合くらいで勝つんじゃない?』と話されたら、ホントに勝てた(笑)」
その後、復帰3戦目となった7月の日本プロから2連勝して鮮やかなカムバック。ショットに飛距離と精度が宿り賞金レースをリードした。
少年時代、石川は自分を主人公にしたゴルフマンガを描いたことがあった。当時、日本のツアーを引っ張っていた伊澤や丸山茂樹と争う……という、ほほえましくも、分かりやすいストーリー。そんな憧れを抱いたトッププロに教えを乞う機会はいつになっても貴重だった。