再び左の距離、そしてボディでのダウン。

「10ラウンド終わりくらいに井上選手が連打で効かした。そこから少し詰まって、左のボディが当たる距離になってきたんです。そして11ラウンドに井上選手が勝負をかけて、左が当たり始めたなと。そこであのパンチが決まったんですよね」

　ドネアからダウンを奪った決定的左ボディ。「左狙い」に切り替えていた福田はそのパンチを読み切った。

「井上選手の右アッパーが、そこで終わらないような打ち方で、左フックを打つような感じがしたんですね。上に来るかボディに来るかはわからないけれど、ボディに注目していたので、アッパーの打ち終わりは捨てて、左ボディをそのまま連写したんです」

　瞬時の判断は報われた。強烈な左がドネアのボディに炸裂する瞬間が、カメラに収められた。その直後にレフェリーが画角に重なってきた。

「0.1秒、いや、0.01秒遅かったら撮れていない」

　まさに一瞬の僥倖だった。

「凄いものに間近で立ち会えたな」

「これはもう終わった、と思ったんですけれどね。ダウンしているドネア選手を撮って、井上選手の喜ぶところを撮ろうと思って切り替えたら、なかなか喜ばない。おかしいな、と思ってドネア選手のほうを見たら、続行となっていたんです」

　驚異的なしたたかさと執念で立ち上がってきたドネア。流血しながら鬼気迫る表情でドネアを追撃する井上。そこから最終ラウンドまでは、もはや百戦錬磨の福田も無我夢中だった。

　すさまじい迫力のカットが次々撮れた。

「もう倒せとかそういうことより、2人とも凄い、凄いものに間近で立ち会えたな、という」

【次ページ】　世界から井上の写真のリクエストが殺到。