濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
アイドル、レジェンドにデスマッチも。
両国3連戦が示したプロレスの多様性。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byDDT ProWrestling
posted2019/11/15 11:00
KO-D無差別級王者の竹下幸之介を破って2冠王となったEXTREME級王者・HARASHIMAが輝く大会に。
両国でアイドルが見せた涙。
翌日のDDTはコース料理というより食べ放題のボリュームだった。
DDTにガンバレ☆プロレス、東京女子プロレス、プロレスリングBASARAと系列全団体のタイトルマッチが行なわれ、出場選手は総勢82名。セミファイナルでケニー・オメガが5年ぶりの“里帰り”を果たし、メインでは新世代のエース・竹下幸之介を下した団体初期メンバーのHARASHIMAがKO-D無差別級、DDT EXTREME級の2冠王になっている。ケニー参戦、HARASHIMAの奮闘と勝利は長くDDTを見てきたファンにはたまらない光景だったはずだ。
DDTを初めて見た、あるいは久しぶりに見たという観客にとって刺激的だったのは東京女子プロレスの選手たちではないか。
エース・山下実優は男女混合タッグマッチでケニーと真正面から渡り合った。坂崎ユカと中島翔子、タッグパートナーでもある2人のシングル王座戦は独創的で「男子に比べると迫力が」と言わせないスリルに満ちていた。
辰巳リカと組んでプリンセスタッグ王者になった渡辺未詩は現役アイドルでもある。プロレスとアイドルの二刀流グループ「アップアップガールズ(プロレス)」のメンバーで、オーディションに合格するまでプロレスに関する知識は皆無だったそうだ。
「他の(アイドルの)オーディションに受かっていたら、こんな素敵な人生にはならなかった。アプガで、東京女子でよかった」
そう言って泣いた渡辺を、先輩グループ「アップアップガールズ(仮)」のメンバーがバックステージで祝福する。そんな光景が見られるのが“現代のプロレス”だ。
「どっちが上か下かじゃない」とイサミ。
ムタが毒霧を噴射し、アイドルがベルトを巻いた両国国技館。4日の大日本ではデスマッチがメインイベントになった。
デスマッチヘビー級選手権、王者・木高イサミが指名した挑戦者は名タッグチーム「ヤンキー二丁拳銃」のパートナーである宮本裕向だった。2人とも大日本のレギュラー参戦選手だが所属ではない。それでも大会場のメインを預けた運営側の懐の深さも含めて、両国という大会場が“大日本の空間”になっていた。血みどろのデスマッチがキワモノに見えないムードと言えばいいだろうか。デスマッチは写真や映像よりも、会場のほうが抵抗なく見られるような気がする。
巨大なハシゴ=ギガラダーからのダブルニードロップ(ギガラダーブレイク)を決めて勝利したイサミは、DDT両国の第1試合で“大社長”高木三四郎をフォールしている。恩人と盟友に連続で勝ったわけだ。しかも両国の檜舞台で。
イサミと宮本は、若手時代のローカル大会から苦楽をともにしてきた。両国と比べたら信じられないほど小さな会場、観客の少ない興行もあった。
「お客さんが10人とか、ありましたよ。もう1人来たら試合を始めようってことになったんだけど、1時間待ってる間に2人帰ったという。そういうところを経ての両国メインです」
でも、とイサミは付け加える。
「そういう小さい興行と今日と、どっちが上とか下とかではないんですよ。どのリングだって一歩間違えたら大ケガするんですから。団体の大小、興行規模じゃないんですよね」