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上田瑠偉、「12秒差」の逆転劇。
スカイランニング世界王者の誕生。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph bySho Fujimaki
posted2019/11/14 07:00
上田瑠偉(手前)は最後まで優勝を争ったオリオル・カルドナにも讃えられ、世界一になった。
オリオルは何度も上田をたたえた。
フィニッシュゲートをくぐり、すぐに振り返ってオリオルのゴールを迎える。抱擁し、お互いの健闘をたたえ合う。2位のオリオルとの差は、わずか12秒。
「彼と闘えたから、この喜びがあるんだ」
上田はそう強く感じていた。オリオルは同世代で、シリーズ戦で何度も戦ってきた相手。今日のように勝ったこともあれば、負けたこともある。ライバルであり、同じ舞台で高みを目指す仲間だ。オリオルは何度も何度も、上田の勝利をたたえた。
後で手元の時計を確認すると、ラスト1kmのラップは3分を切っていた。自分は全力を出し切ったのだ。
上田の心の奥深くから、これまでの人生で味わったことのない歓喜がこみ上げ、全身を包み込んでいく。いつしか目からは涙が溢れていた。いつまでもいつまでも止まらない。
一戦一戦気を許すことができなかった長丁場のシリーズ戦を終え、解放感という波が上田の胸に押し寄せていた。