野球のぼせもんBACK NUMBER
「ロマン砲」か「博多のどすこい」か。
ホークス三軍で育つ砂川リチャード。
posted2019/11/10 11:40
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kotaro Tajiri
ドスン。
宮崎市で行われているホークス秋季キャンプ。2月は数万人規模のファンが集うが、秋は主力級の多くが不参加のためさすがに見学者は少ない。ましてやメインのアイビースタジアムでもないサブグラウンドで汗を流すのは、よほどコアなファンしか興味を持たない背番号3桁の育成選手ばかりだ。
ひと気の少ない生目第二球場のバックスクリーンで起きた衝突音は、およそ130m離れた本塁後方の客席まではっきりと伝わってきた。
「飛ばす力はチームでトップクラス。飛距離だけなら一軍や」
ホークスの育成選手という“金の卵”たちを預かる藤本博史三軍監督がトレードマークの口ひげをクッと上げて、にんまりと笑顔を作った。
たしかにその打球だけを見れば、柳田悠岐やデスパイネと同等以上の大迫力だ。それほど力みのないスイングなのにボールは遥か彼方に飛んでいく。外野フェンス後方の防球ネットを何度も揺らした。
沖縄出身、兄はマイナーでプレー。
打球の主は背番号127、20歳の砂川リチャードだった。
身長188cm、体重106kg。いかにもスラッガー然とした体躯だ。沖縄出身。父は軍事施設で働く米国人で、兄(ジョーイ・オブライエン)は地元の高校を卒業後にアメリカの学校に進学して、米大リーグのシアトル・マリナーズからドラフト指名を受けてマイナーリーグでプレーをしている。
育成選手なので当然一軍出場はない。二軍公式戦もプロ1年目は出場ゼロで、2年目だった今季も8試合しか出場歴がない。しかも13打数1安打、打率.077と何の実績も残せていない。
しかし、ホークスには三軍がある。今季非公式戦には94試合に出場し、11本塁打を放った。
「いや二、三軍戦でも一発打ったので今年は12本です」
自分の長所を必死にアピールしなければならない立場だ。数字を確認するとすぐさま訂正が入った。