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小平奈緒は今季も世界新を目指す。
北京五輪は“ぼんやり”視野に。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKyodo News
posted2019/11/03 11:00
昨季の3月にはカルガリーの高速リンクで非公認ながら36秒39をマークしている小平。今季の記録更新に期待がかかる。
1000mの世界記録を破られたこともプラス?
小平は、自身が'17年12月に樹立した1000mの世界記録(1分12秒09)を'19年3月のW杯ファイナルで破られたこと、そして、同大会で高木美帆が1500mの世界記録(1分49秒83)を出したことをプラスにとらえている。
「昨シーズンは、アメリカのブリタニー(・ボウ)に1000mの世界記録を塗り替えられて、高木美帆選手は1500mで記録をつくりました。その中で私自身もまた挑戦者の気持ちになれます。この感覚は久しぶりですね」
今季は2シーズンぶりに1500mにも取り組んでいることも注目の要素だ。主眼を向けるのはあくまで500mだが、「1500は北京(五輪)を見据えたときに、またそろそろやっていこうかな、と。体力のベースを高めるために採り入れようと思っています」と語ったからだ。
北京五輪は「締め切り」と一緒。
昨季は口にしなかった「北京五輪」を視野に入れた真意を聞かれた小平は、「目標はぼんやりあったほうが良いのかな」と言葉を継いでいった。
「そこに向かって一直線というのではなく、でもぼんやりと見えていたほうが良いのかな。真剣になってやっていかないと、ボサっとしていたら北京は過ぎちゃうよ、というような。それは、課題をクリアしていくときに、締め切りがあるような感覚です。みなさんもご存じだと思うのですが」
小平が微笑むと、ペン記者たちからも自然と笑いが起き、場がスッと和んだ。
自分への向き合い方、記録への向き合い方、競技への向かい方。小平のぶれない姿勢にはさらに磨きがかかっている。そして、究極の滑りを追い求める姿勢は果てしなく崇高でありながら、どこか軽やかさもまとっているのである。今季の小平はまた新しい魅力を見せてくれるに違いない。そう感じられるシーズンの幕開けである。