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女子マラソンの世界記録が大幅更新。
ラドクリフも市民ランナーも祝福。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2019/10/27 11:30
女子マラソンの世界記録が16年ぶりに更新された。人類は確実に前へ進んでいるのだ。
女性が2時間10分で走ることも可能?
「こんなタイムは信じてなかったし、私も驚くようなことです。でも、女性が2時間10分で走ることさえ可能だと見ていました」
とコスゲイ。
メディア・センターで行われた会見では、前日(12日)、オーストリアのウイーンでリオデジャネイロ五輪の金メダリストで同じケニア出身のエリウド・キプチョゲが40人余りのペースメーカーの力を借りる特別な環境のもとで1時間59分40秒、人類初のマラソン「2時間切り」に成功したこともあり、コスゲイにも「タイム」に関する質問が集中した。
――非公認ではありますが、キプチョゲの記録についてどう思いますか?
「彼(キプチョゲ)にとっても、ケニアにとっても良かったことだと思います」
――あなたはさっき、2時間10分を切れると言いましたが、本当に可能だと?
「私が健康で、怪我なく、ハードワークをしていけば、少しずつ、1分、2分とゆっくりと(タイムを)減らしていくことは可能かも知れません」
ドーピングについての質問にも応答。
コスゲイが2015年のポルト・マラソン(ポルトガル)で初優勝した時のタイムは、2時間47分59秒。それから約半年後の2016年に行われたミラノシティー・マラソン(イタリア)で2時間27分45秒と20分以上もタイムを短縮した。
大幅な自己タイムの更新自体は珍しいことではないが、彼女のタイム短縮はそれに留まらず、2017年のホノルル連覇時は2時間22分15秒と5分以上短縮。2018年のロンドンでは2時間20分13秒とさらに2分も短縮して見せた。
そして今回のシカゴでの世界記録。フルマラソン転向後の11レースで7勝を挙げ、その間33分55秒も短縮したのだから、こういう質問も飛んで当然だったのかも知れない。
「某メディア(ロイター)の報道によると、2004年から2018年の間に世界アンチ・ドーピング機関(WADA)は138人ものケニア出身選手がドーピング検査で陽性反応を出し、その内、113選手が大会期間中だったという報告をしている。それについてはどう思いますか?」
困惑した表情になったコスゲイは、それでも質問者から顔を背けることなく、こう言った。
「ドーピングをした選手たちとは違う場所で練習してますし、私は自分のタイムを短縮することに集中しています。他のアスリートのドーピングのことは分かりません。私に言えるのは、どんな人もクリーンに走れるはずで、ハードワークすべきなのです」
思わぬ世界記録に浮かれていた気分が、そこで一気に冷めてしまった。
しかし、誰も質問者を責めることは出来ない。なぜなら、それが我々メディアの仕事であり、この場合、質問者は「最近の陸上界の流れを考えれば当然、しなければならない質問」をしただけに過ぎない。