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女子マラソンの世界記録が大幅更新。
ラドクリフも市民ランナーも祝福。 

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ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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posted2019/10/27 11:30

女子マラソンの世界記録が大幅更新。ラドクリフも市民ランナーも祝福。<Number Web> photograph by AFLO

女子マラソンの世界記録が16年ぶりに更新された。人類は確実に前へ進んでいるのだ。

「世界新記録のペースです!」

 マラソンの取材はスタート/ゴール地点近くのホテルの会議室に設置されたメディア・センターにこもって、テレビ・モニターを見ているだけなので、家でマラソン中継を見ているのとそう変わらない。

 違うのは区間を通過するごとにタイムが主催者から発表され、それが世界記録やコース記録とどれぐらい違うのかを教えられる部分だ。

 どちらかと言えば粛々としているのがメディア・センターの雰囲気なのだが、コスゲイが中間地点を通過して間もなく、主催者が次のようにアナウンスしたことで、それが一変する。

「コスゲイのタイムはハーフウェイでは1時間6分59秒でした。世界新記録のペースです!」

 半分の距離で1時間6分59秒。単純に2倍すると2時間13分58秒?

 16年前=2003年のロンドンでポーラ・ラドクリフ(英国)が樹立した世界記録の2時間15分28秒を上回る可能性を、初めてリアルに感じた瞬間だった。

 コスゲイは30キロ地点までに加速して区間15分45秒、35キロでは同15分56秒、ペースメイカーが次々と離脱した40キロ地点でも同15分57秒とペースがまったく衰えなかった。

 チャイナタウンを通り抜け、ホワイトソックスの球場近くの33番通りを左折して、イリノイ工科大学のキャンパスを横切って、南北に長く伸びるミシガン通りに入る。モニターに映る見慣れたシカゴの風景から、彼女がどんどんゴールに近づいているのが分かった。

ラドクリフ「この時が来ると知っていた」

 ゴールが近づくと、さすがにドキドキしてくる。ただし、メディア・センターの映像はレース中、基本的には無音なので、ゴール地点の雰囲気は後からテレビ中継の録画で知ったことである。

「マラソンのワールドレコードだ! ブリジーット・コスゲーイ、ケニアァァァァァ!」

 ゴール地点にいるアナウンサーがそう叫ぶと、控えめに両手を挙げたコスゲイが、ゴールのテープを切った。

 奇遇なことに、今年のシカゴ・マラソンでは旧世界記録保持者のラドクリフ(英国)がテレビ中継の解説をしていた。彼女はレース後、コスゲイと仲良く写真に納まり、テレビのインタビューでこう答えている。

「我々は全員、この時が来ると知っていたと思います。記録を樹立した当時は、こんなに長く、記録が残るとは思っていませんでした。それは私にとっての自己ベストであり続けます」

 ちなみにシカゴ・マラソンの女子のコース記録も、2002年にラドクリフが出した2時間17分18秒であり、もちろん、それも更新されたことになる。

【次ページ】 女性が2時間10分で走ることも可能?

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