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女子マラソンの世界記録が大幅更新。
ラドクリフも市民ランナーも祝福。
posted2019/10/27 11:30
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
AFLO
世界新記録を出したばかりの女王は少し、はにかむような表情で素直に喜びを口にした。
「ここまで走れるとは自分でも期待していなかったので、いい気分だし、ハッピーです」
ブリジット・コスゲイ。10月13日に行われたシカゴ・マラソンで、2時間14分04秒という世界記録を樹立して独走優勝したケニア共和国出身の25歳(1994年2月20日生まれ)だ。
日本ではまだ走ったことはないが、日本人にも馴染み深いホノルル・マラソンで2度の優勝経験(2016年と2017年)があり、ポイント制でシーズン王者を決めるワールド・マラソン・メジャーズ(WMM)のロンドンとシカゴでは、2018年と2019年の2連覇中だ。
「去年は暑かったけれど、今年は風があるぐらいでコンディションは良かったと思います。自分の体が動く、動く、動くと感じました」
最後の部分は、英語では「I feel my body is moving, moving, moving」。今まで聞いたことのない言い方だった。取材現場にいたアフリカ出身の関係者によると、多言語国家の公用語はスワヒリ語らしく、独特のアクセントで話す。
最初の5キロで集団から抜け出す。
最初から記録狙いだった。コスゲイと同じケニア出身の男子選手=ペースメイカーが二人伴走しての快走で、それは40キロ付近まで続いた。彼女自身がレース後の会見で明かしたところによると「スピードを上げ下げして、ぺースを保てるように走ってくれた」という。
「ここで自己ベストを更新したいと思っていました。2時間15分、2時間15分、2時間15分と集中していました。2時間17分や2時間18分には集中していません。2時間15分だけです」
まさか本当に心の中で「215=Two fifteen」と連呼していたわけではないだろうが、その目標をクリアするため、彼女は最初の5キロを15分28秒という驚異的なスピードで駆け抜けた。
「(最初)速すぎたのは、集団から抜け出してタイムに集中したかったからです。誰も怖いと感じたくなかったし、誰も気にしたくなかったのです」
次の5キロ=10キロ地点の区間タイムは16分ちょうど。15キロ地点では同15分58秒と待ち直したものの、20キロ地点が同16分01秒、25キロ地点が同16分06秒とじわじわ落ちていった。
過去のシカゴ・マラソンでも、世界記録やコースレコードのペースだったレースが途中から大幅にペースダウンすることがあったので、それほど驚きはなかった。