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涙も年齢も力の差も受け止めて。
田中史朗が若者に託す「もっと上」。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2019/10/22 19:00
田中史朗はいつだって真っ直ぐだ。苦言も涙も、その全てが彼の真実なのだ。
「僕とトモはおっさんなので」
これからも世界に挑んでいく日本代表に、田中は加わっていくのだろうか。
「まあ自分自身、ここからどうなるかは分からないですけど、やっぱりもっと若い選手、これからチームを引っ張っていってくれる選手が増えていけば、もっともっと……」
ふいに、田中の言葉が途切れた。試合後の取材エリアで同じく記者に囲まれていた「トモ」ことトンプソンルークが、「フミ、うるさいよ!」と突っ込みを入れてきたのだ。
38歳のチーム最年長選手は、3度のW杯をともに乗り越えてきた戦友である。言葉では言い表せない結びつきがあるのだろう。田中は「ハハハハハ」と小さな笑い声をあげ、「アイツはおっさんなので」と切り返し、砕けた口調をすぐに整えた。
「僕とトモはおっさんなので厳しいかもしれないですけど、若い選手がこの試合を見て、流とか姫野(和樹)とか松田(力也)もそうなんですけど、2015年を見てもっとやらないといけないと思って頑張ってきた彼らのような選手が、今回こうやって活躍してくれた。
今回のW杯を見た若い選手が、自分たちももっとやらないといけないと思ってもらえれば、またさらに新しい道が開けるんじゃないかと思います」
田中にしかできないことがまだある。
W杯開幕前の4月に、パナソニックワイルドナイツからキヤノンーグルスへの移籍を発表していた。稲垣啓太、ヴァルアサエリ愛、堀江翔太、坂手淳史、福岡堅樹、松田らのW杯メンバーを擁する国内屈指の強豪を離れ、トップリーグ優勝経験のない中堅クラブで来年1月開幕の新シーズンを迎える。
「今後については色々考えながら……もう少しプレーヤーでもやりたいので、考えながらやっていきたいです」
今回のW杯で脚光を浴びたスタンドオフの田村優とともに、キヤノンに勝者のメンタリティを植え付けていく。キヤノンのレベルアップに貢献することで、トップリーグを盛り上げていく。日本ラグビー全体を、前進させていく。ラグビーが文化としてさらに広く深く根付いていくために、草の根の普及活動にも力を注いでいく。
翌日の記者会見でも大粒の涙をこぼしたが、気持ちはすでに動き出している。田中だからできること、田中にしかできないことは、まだまだあるのだ。