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曹監督の退任、そして湘南の苦境。
クラブとしてハードワークで再建を。 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byGetty Images

posted2019/10/09 11:50

曹監督の退任、そして湘南の苦境。クラブとしてハードワークで再建を。<Number Web> photograph by Getty Images

湘南ベルマーレというクラブがここからどんな道を進むか。それにサッカー界は注目している。

言ってはいけない言葉はある。

 メディアが“湘南スタイル”と名付けたサッカーに魅せられたのは、ベルマーレのファン・サポーターだけではない。「成長できるチーム」との認識が、Jリーガーに広く浸透していくのだ。

 資金力の豊富なチームに主力を引き抜かれる一方で、ベルマーレでプレーしたいと望む選手が増えていく。期限付き移籍を延長した、期限付きから完全移籍へ移行した、他クラブへ移籍したものの戻ってきた、といった選手は数多い。

 今回公表された報告書にも、「あそこまで選手と向き合ってくれる監督はいない」、「曹さんのおかげで選手として成長できた」、「素晴らしい人だと思う。自分が出会った監督の中で間違いなくナンバーワンだと思う」といった選手たちの言葉が書き込まれている。

 しかし残念ながら、全ての選手にとってポジティブな環境ではなかったようだ。文字を読むだけでも恐怖を覚えるような言葉を浴び、精神的苦痛を受けたスタッフや選手がいたことを、報告書は明かしている。

 言葉の受け止め方は人それぞれだとしても、言ってはいけない言葉はある。やってはいけない行動がある。スポーツの現場には叱咤激励という表現では収まらないやり取りがあり、厳しく激しい叱責の許容範囲が一般企業より広いものの、曹前監督の言動は看過できるレベルではなかったということである。

クラブの透明性は高かったはずだが……。

 市民クラブとして再生した生い立ちから、ベルマーレはどの角度から見ても透明性が高い。経営情報は包み隠さず開示し、ファン・サポーターとの対話の場を定期的に設けている。クラブの運営はガラス張りだ。

 どんな人がどんな仕事をしているのかが、第三者からも非常に分かりやすい。眞壁潔会長と水谷尚人社長には、肩書を感じさせないオープンさがある。他クラブへ移籍した選手はほぼ漏れなく、ベルマーレとの試合後に会長らのもとへ足を運ぶ。嬉しそうに挨拶をして、にこやかに雑談する。家族の再会のようだ。

 トップチームを束ねる坂本紘司スポーツダイレクターは、クラブのレジェンドのひとりである。彼以外にも元選手のフロントスタッフがいる。

 クラブが培ってきた企業体質と人材を考えれば、現場の声がスムーズに吸い上げられると個人的に感じていた。それだけに、パワハラの実態を認識できなかったのは残念でならない。

 自分たちに不都合な事実を隠していたとか、眼を背けていたとは考えにくいので、知らず知らずのうちにガラスに傷が入ったり埃が膜を作ったりして、透明度が落ちていたのかもしれない。

【次ページ】 制裁、そして再発防止への動き出し。

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曹貴裁

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