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<追悼ノンフィクション>
ディープインパクト最後の秋。
posted2019/10/10 07:00
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Photostud
光輝に包まれた2年間の現役生活のなかでも、その秋は特別に濃密だった。単なる敗北に留まらず、王者の名誉をも揺るがした凱旋門賞失格という蹉跌。引退までの残り2戦、絶対に負けられない――。最後の秋に完璧な勝利で汚名をすすぐために、陣営は壮絶な戦いを静かに繰り広げていた。(Number987号掲載)
この馬なら日本のホースマンの積年の夢を叶えてくれる――。そんな大きな期待を背負って2006年の凱旋門賞に臨んだディープインパクトはしかし、本来の「飛ぶ走り」ができず、3位入線に終わった。失意のまま10月4日に帰国。陣営が10月29日の天皇賞・秋への出走の意思を示したことにより、10月10日から東京競馬場の厩舎で着地検査を行うことになった。
管理調教師だった池江泰郎はこう話す。
「敗れて悔しい思いをしましたが、強いことはあらためて証明された。金子真人オーナーは年内に天皇賞とジャパンカップ、有馬記念と3戦することを望んでいましたので、それに向けて調整を進めました」
ところが、東京競馬場入りした翌日、予期していなかったことが起きた。金子から池江に連絡が入り、ディープを年内で引退させると告げられたのだ。
「驚きました。馬が無事なら、翌年もチャンスがあると思っていましたので。それは幻に終わりましたが、気持ちを切り換えて、残りのレースに集中することにしました」
ディープの調教に騎乗していた調教助手の池江敏行は、叔父でもある池江から東京競馬場の厩舎でそれを伝えられた。