酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
阿部慎之助が巨人と球界に刻んだ、
“打てる捕手”としての超人的成績。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byShigeki Yamamoto
posted2019/09/30 11:30
2012年、セ優勝の瞬間。400本塁打を達成し、首位打者も獲得。球史に残る捕手として阿部慎之助はバットとキャッチャーミットを置く。
歴代4番の成績と比べても遜色ない。
空前のV9時代の正捕手、森昌彦は川上哲治監督の信頼厚い名捕手で、インサイドワークに優れていた。またしぶとい左打者としてON(王貞治、長嶋茂雄)の後ろの5番を打つこともあった。しかし、全盛期には不動の4番打者だった阿部慎之助とは比較にならない。
<巨人の4番打者としての安打数10傑>
1位:川上哲治
1658試合6420打数2034安打
162本1129打点 率.317
2位:長嶋茂雄
1460試合5396打数1694安打
314本塁打1075打点 率.314
3位:王貞治
1231試合3994打数1258安打
392本塁打1009打点 率.315
4位:原辰徳
1066試合3940打数1099安打
255本塁打729打点 率.279
5位:A.ラミレス
511試合1978打数610安打
139本塁打407打点 率.308
6位:松井秀喜
470試合1660打数535安打
138本塁打349打点 率.322
7位:阿部慎之助
504試合1787打数513安打
96本塁打342打点 率.287
8位:中島治康
410試合1647打数466安打
34本塁打266打点 率.283
9位:落合博満
331試合1149打数335安打
48本塁打199打点 率.292
10位:清原和博
297試合1039打数259安打
67本塁打213打点 率.249
阿部慎之助は錚々たる顔ぶれに伍して、通算安打数7位(ちなみに森昌彦の4番での成績は6試合6安打0本塁打)。巨人の最強捕手という評価はゆるがないだろう。
小笠原、和田、村上は捕手から転向。
野球界全体を見渡しても、これだけの「打てる捕手」は、めったにいない。
プロ入りするくらいの捕手は「強打の捕手」の触れ込みで入団することが多い。しかし、多くは捕手の激務にさらされるうちに打撃がおろそかになり「専守防衛」になってしまう。
そうでなければ「打撃を生かすために」他のポジションにコンバートされることが多い。球史に残る大打者でも、衣笠祥雄、小笠原道大、松原誠、江藤慎一、和田一浩、山崎武司らは捕手からの転向組だ。
現役でも日本ハムの近藤健介や今年売り出したヤクルトの村上宗隆などは、若手のうちに打撃を生かすために捕手から他のポジションにコンバートされた選手だ。
捕手の仕事と打撃の両立は、それほど至難の業なのだ。
しかしそれだけに、これを両立させた選手は、チームに絶大な貢献をする。