酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
阿部慎之助が巨人と球界に刻んだ、
“打てる捕手”としての超人的成績。
posted2019/09/30 11:30
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Shigeki Yamamoto
昔、豊臣秀吉が黒田官兵衛に「世の中で一番多いものは何じゃ?」と訊くと官兵衛は「人にございます」と答えた。秀吉が「では一番少ないものは?」と訊くと「やはり人にございます」と答えたという。
なぞなぞのようだが、最初の「人」には(凡庸な)というカッコがつき、2つ目には(優秀な)がつく。
もし「野球の中で多いものは……」と訊かれれば、筆者は「(貧打の)捕手にございます」と答える。一方で「では少ないものは?」と訊かれたなら「(強打の)捕手にございます」と答えるだろう。
それくらい、いつの時代も、そして洋の東西を問わず野球界には「打撃の良い捕手」はめったにいない。
捕手は投手に次ぐ運動量の多いポジションであり、攻守の要だ。
150kmにも及ぶ、恐ろしいスピードの球を1試合に100球以上も受け止める。目の前ではむくつけき大男がバットを振り回している。一塁を見やれば走者が二塁をうかがっている。
そんな激しい環境で、捕手は日々仕事をしている。やっとのことでスリーアウトを取ってベンチに戻り、気持ちを切り替えてバットを手にしてヒットや本塁打を狙うのは、常人ではできないことだと思う。
このたび引退を表明した阿部慎之助は、そうした超人的な仕事をこなし、結果を出してきた。その功績は、日本プロ野球史に残る。
間違いなく巨人史上最強の捕手。
データを出すまでもないのだが、阿部慎之助は巨人85年の歴史で間違いなく最強の捕手である。
<巨人の捕手としての記録3傑>
〇捕手出場試合数
1森昌彦 1833試合
2阿部慎之助 1666試合
3山倉和博 1253試合
〇安打数
(巨人の捕手として500試合以上出場。以下同じ)
1阿部慎之助 2131安打
2森昌彦 1341安打
3山倉和博 832安打
〇本塁打数
1阿部慎之助 405本塁打
2山倉和博 113本塁打
3村田真一 98本塁打
〇通算打率
1阿部慎之助 .284
2森昌彦 .236
3吉田孝司 .235