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ビアンキの死から4年、新たな犠牲者。
フランスの22歳、ユベールを悼む。
posted2019/09/15 20:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
また、悲しい事故が起きてしまった。
ベルギーGPのサポートレースとして、8月31日(土)にスパ-フランコルシャン・サーキットで開催されていたF2選手権のレース1で、フランス人のアントワーヌ・ユベールがクラッシュに巻き込まれ、事故から約1時間半後の18時35分に、22歳の若さで命を落とした。
ユベールとクラッシュしたファン・マヌエル・コレア(アメリカ)は、両足の骨折と軽度の脊椎損傷を負い、地元リエージュ大学病院で手術が行われた後、専門的な治療を受けるために渡英したが、その後容態が悪化。急性呼吸不全のために現在は集中治療室での治療が続いており、予断を許さない状況にある。
事故後、F2のベルギーでのレース1は直ちに中止され、翌日に予定されていたレース2も中止が決定された。
F1グランプリ開催中のイベントで起きた事故でドライバーが死亡するのは、2014年の日本GPでクラッシュし、翌年7月17日に亡くなったジュール・ビアンキ(フランス)以来の悲劇となった。
「それだけの価値が本当にあるのか?」
5年ぶりの痛ましい事故に、レース界が動揺したのは言うまでもない。この日、メルセデスは18時から育成ドライバーだったエステバン・オコンのルノー移籍会見を予定していたが、急きょキャンセルした。
フランス人のオコンは、少年時代にユベールとカートでレースをした経験がある。オコンだけではない。F1ドライバーの多くが、ユベールの死に言葉を失っていた。
ユベールはルノー・スポール・アカデミーの一員だった。そのルノーで現在F1のステアリングを握るダニエル・リカルドは、いつもとは違う感情の中で、翌日のレースを戦おうとしていた。
「レース前夜、自問したよ。『それだけの価値が本当にあるのか?』って」(リカルド)