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“テコンドーの貴公子”鈴木セルヒオ。
「惜しかった奴」が東京五輪へ!
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT
posted2019/09/17 11:00
2019年2月に開催されたテコンドー全日本選手権で3連覇を果たした“テコンドーの貴公子”鈴木セルヒオ。
「惜しかった奴」で終わりたくなかった。
翌年のリオデジャネイロ五輪にも出場が期待されていたが、アジアの大陸予選であとひとつ勝てばというところで中国人選手に敗れてしまう。
リオ後のことは考えていなかったセルヒオは絶望感に打ちひしがれた。
「大学を卒業してからも競技を続けられるとは思わなかったので、もう終わりかなと諦めムードになりました」
それからセルヒオは現役続行を決意する。
きっかけは周囲から「惜しかったね」と労いの言葉を何度もかけられたことだった。
「惜しかった奴のままで終わりたくはなかった」
努力の甲斐あって、セルヒオは女子-57kg級の濱田真由(ミキハウス)、女子-49kg級の山田美諭(城北信用金庫)とともに東京五輪日本代表の最有力候補といわれているまでに成長した。
1月の五輪最終選考優勝を目指して。
ただ、2度目の2017年世界選手権もベスト16。世界の壁を感じたセルヒオは思い悩んだ。
「結構やりあえるし、いいところまでは行く。でも勝ち切れない。海外の選手、中でも韓国の選手は身体能力が高い。ベスト8より先になると、みんなバケモノ。自分はバランスもとれているし、いろいろな引き出しもあるし、タイミングもいい方だと思う。でも、何かひとつ足りない」
現在は右肩のリハビリと闘う身。9月開催の千葉グランプリへの出場も見合わせた。
「脱臼と亜脱臼。2回外れて、ちょっとクセになっていた。今後の競技生活に響くような感じだったので、今年4月に手術しました。その1カ月後には練習に復帰し、少しずつ強度を上げています」
現在出場を決めているのは来年1月開催の五輪最終選考のみ。セルヒオは一発勝負にかけることになる可能性が高い。
「その大会で優勝したら内定が出る。僕は大舞台になると結構良かったりするので楽しみです」
もう自分に失望することはない。一見格闘技とは縁遠そうな細面のイケメンは穏やかな怪物になれるか。