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アザールがまだ原石だった17歳。
恩師が惚れたドリブルの才と知性。
text by
サビエ・バレXavier Barret
photograph byGetty Images
posted2019/09/01 15:00
リール時代、若きアザールは2008-09、2009-10シーズンと2年連続でリーグ・アン最優秀若手賞を受賞した。
同じことを2度話す必要がない知性。
――彼にいろいろ理解させるのは難しかったですか?
「アザールのアザールたる所以は、同じことを2度話す必要がないことだ。人の話をよく聞くしプレーに知性がある。一度説明すると、即座に理解してピッチ上でそれを再現する。たしかに最初のころ彼は、サッカーはボールをいかにうまく扱うかだと思っていた。ボールをキープしたがったし、個人的な違いを作り出すことにばかり熱心だった。でもいつもそればかりできるわけじゃないだろう」
――練習嫌いで守備も嫌いだったと言われていましたが?
「確かに練習嫌いで通っていたが、現実のエデンはコンペティターだ。練習でも競い合う場面――11対11の試合形式に限らずミニゲームでも――が生じると、エデンは常に存在感を見せつけた。何か競争の場面になると、それが小さなグループの中でのことであっても、彼は本気でトップを目指した。ボールを使ったトレーニングが多かったが、彼はプレーが大好きだし本物のコンペティターだ。
そういう負けず嫌いは私も嫌いじゃない。練習では誰が一番勝って誰が一番負けたかを選手たちに伝えて、彼らの競争意識を刺激した。彼らにしても、勝つことが大好きだからモチベーションが大いに高まった。
そのなかでエデンは常に上位にいた。ピッチの周りを周回するとか、あまり興味を掻き立てられないものにはさほど熱心ではなかったけれども。でもマラソンのようなランニングを好む選手なんていないだろう。
身体機能をレッドゾーンまで上げる厳しいトレーニングの際には、精神面がとても重要だ。限界を超えてもやらねばならないときがある。身体が悲鳴をあげても、頭は続けることを命じる。それもまた若いうちに学ばねばならないことで、精神的な鍛錬が必要だ。
彼はそれができた。才能に恵まれたうえに、才能を生かせる知性が彼にはあった」
君に対して厳しいのは才能があるからだ。
――だから他の若手たち――例えばヤニス・サリブルとは異なり、ここまで来ることができたのでしょうか?
「私はエデンにこういい続けた。『君に対して厳しいのは、君に才能があるからだ』と。彼は自らの上限にまで達することができた。私は彼には常に厳しかったし、彼も厳しさを受け入れていた。
ヤニス・サリブルはエデンより少し遅れてトップチームに入った。ヤニスも最高のキャリアを築きうる選手だったが、進歩の速度は人それぞれ異なる。エデンはリールに残るのが最善の選択肢だったが、ヤニスには新たなチャンスを得るための環境の変化が必要だった。より自由に力を発揮できる環境だ。スタート時点でふたりは似たような状況にあったが、その後たどった道のりは別々のものになったわけだ」