Number ExBACK NUMBER
2006年オフ、イチローが王監督に
どうしても訊いておきたかったこと。
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/08/30 11:30
2006年、第1回WBCを制した王監督は、優勝セレモニーでイチローの腕を持ち、高々と天に掲げた。
なぜ、僕をWBCのメンバーに?
イチローは過ぎゆく時間を惜しむかのように、王監督へ矢継ぎ早に質問を浴びせていた。
「監督、挫折を味わったことはありますか」
「僕は花が咲くのが遅いんだよね。だからこそ土壇場に強いんだって、自分に言い聞かせているところはあったよね」
「僕をWBCのメンバーに入れていただいたのは、なぜだったんですか」
「だって、アメリカでこれだけのものを示してきているんだから、キミは外せないよ」
「監督にはホームランのイメージしかないんですけど全力で走ったこともあるんですか」
「何を言ってるんだ、オレは二塁打王を獲ったこともあるんだぞ(笑)」
王監督も、嬉しそうに答える。
自分のためか、チームのためか。
話に花が咲き、贅を尽くした鮨をたらふく食ったあと、イチローはおもむろに王監督に訊ねた。
「現役時代、選手のときに、自分のためにプレーしていましたか、それともチームのためにプレーしていましたか」
イチローは訊いた直後、ドキドキしていたのだと言った。
「答えを聞くまでのちょっとの間、緊張しましたよ(笑)。ああ、訊かなきゃよかった、という結果だって考えられるから……」
王監督は即答した。
「オレは自分のためだよ。だって、自分のためにやるからこそ、それがチームのためになるんであって、チームのために、なんていうヤツは言い訳するからね。オレは監督としても、自分のためにやってる人が結果的にはチームのためになると思うね。自分のためにやる人がね、一番、自分に厳しいですよ。何々のためにとか言う人は、うまくいかないときの言い訳が生まれてきちゃうものだからな」
イチローは小さな声で「ありがとうございます」と言って、頭を下げた。
Number Books
『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019』
2000年、メジャーリーグ挑戦直前のインタビューから、2019年3月、現役引退直後にシアトルで行われたロングインタビューまで、「Sports Graphic Number」を中心に20年間、100時間を超える単独インタビューを完全収録!
彼が私たちに見せてくれた幾多のプレーと同様に、その言葉どんなときも美しく、力強い。
<本体1,800円+税/石田雄太・著>
▶ 書籍紹介ページへ(文藝春秋BOOKS)