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2006年オフ、イチローが王監督に
どうしても訊いておきたかったこと。
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/08/30 11:30
2006年、第1回WBCを制した王監督は、優勝セレモニーでイチローの腕を持ち、高々と天に掲げた。
張本さん、物腰が柔らかくて……。
かつてのイチローといえば、ストイックで孤高のイメージがついてまわったものだが、近頃はテレビ番組などではしゃぐ姿も珍しくなくなってきた。フィールドの上では相変わらず喜怒哀楽を表現しないイチローだが、それ以外の場所ではやけに堂々と感情を晒け出す。そんなフランクなイチローを改めて感じさせられたのは、あと453本に迫った通算安打の日本記録に話が及んだときのことだった。
「何本ですか。3085本? いつか張本(勲)さんのその記録を抜く日が来たら、記者会見で出ますよね。『張本さんに何か一言』って……そしたら、『カーツッ』って言おうかと思っていたんです(笑)。でも去年のWBCのとき、東京ドームのダグアウトに座っていたら張本さんがいらっしゃったんですけど、ものすごく物腰が柔らかくて、棘々しさがまったくなくて、とても感じのいい方だったので、ビックリしたんです。そうしたら日曜日の番組の張本さんも、なんだかかわいく見えてきてしまって(笑)。
最近、僕、いろんなタイプの人に惹かれるんです。別に不思議なことではありません。だって、僕が理想としているもの、自分が目指しているもの、実際に自分がやっていることを、同じように表現する人のことを好きになるわけではないですからね。他の人に僕と同じであることを求めているわけではなくて、自分のスタイルを持っているという点で同じであるという人に、惹かれるんです」
王監督の言葉の本気さに惹かれた。
年が明けて間もない頃、イチローは東京・六本木の鮨店で王貞治監督と食事をともにした。WBCで優勝して、サンディエゴで握手を交わして以来、10カ月ぶりの再会。1カ月にわたるWBCの戦いの中で、イチローは王監督の持っている「自分のスタイル」に心底、惹かれるようになっていた。
「僕がWBCへの出場を決断して、あいさつのための電話をしたとき、僕は監督の携帯に非通知で電話してしまったんです。なのに電話に出てくれて、さらに『ハイ、王ですが』って言っちゃうんですよ。それって、監督の人柄を表してると思いません?」
王監督は、胃の全摘手術を受けたとは思えないほど、鮨をパクついている。それがイチローにはたまらなく嬉しかった。そこが王監督の馴染みの鮨屋だったこともあって、監督の知人と出くわすこともあった。
そんなときの王監督は出過ぎず、さりげなく挨拶をして、イチローを紹介する。そして、別の客に「お騒がせしてすみません」と頭を下げた。イチローも監督のマネをして「すみません」と頭を下げ、「なるほどね、そういう気配りは大切ですよね」と言って、笑っていた。
「勉強です。監督のあの雰囲気、なかなか出ませんよ。まったく棘がないし、お愛想って感じでもない。どんな言葉も本気ですからね。それがすごい」