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アルディレスもハリルも信頼した男。
浦和・羽生通訳の5カ国語“操縦術”。
posted2019/08/13 11:30
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
Masayuki Sugizono
朝から30度を超える真夏日でも、浦和レッズの練習場には大槻毅監督の大きな声が飛んでいる。
「暑い、暑いと言っても誰も褒めてくれないぞ。暑くても走る、走る」
そのあとを追うように、張りのある声が響く。マウリシオ、ファブリシオ、エヴェルトンと3人のブラジル人は、羽生直行通訳のポルトガル語に耳を澄ましている。
当初はオズワルド・オリヴェイラ前監督の専属だったが、5月下旬からは選手担当。以前は主にポルトガル語から日本語に訳していたが、いまは日本語からポルトガル語に変換することが多い。大槻監督のユニークで独特な言葉もさらりと訳してしまう。
走りの強弱については「マラソンのなかにスプリントを入れよう」と言ったり、ボールへの寄せが甘ければ「本当にアクセルを強く踏んでますか?」と問いかける。守備の指示では「わびさび」という単語まで飛び出たことも。通訳は頭をフル回転させないといけない。
文化と文化を置き換える工夫。
「毎日のように頭を使い、こう訳したほうが伝わりやすいかな、と日々考えながら仕事しています。外国語から日本語も、日本語から外国語も同じです。ただ言葉を置き換えるだけでは通じません。文化と文化を置き換える工夫が必要です。そのまま訳すときつい表現になり、誤解を招くこともあります。そうならないように、直訳を意識した意訳という感じですかね。言葉は文脈によって変わるものです。状況判断が大事になってきます」
浦和では主にポルトガル語の通訳を務めているが、話せる言語は5カ国語に及ぶ。日本語、ポルトガル語に加えて、スペイン語、英語、フランス語。どの言語も通訳の基本的な考え方は変わらない。
現在43歳の羽生氏は、サッカー界で知らない人がいないほどの、その道のベテランだ。
日本代表では2014年からメキシコ人のハビエル・アギーレ元監督のスペイン語通訳、'17年途中からボスニア・ヘルツェゴビナ出身のヴァイッド・ハリルホジッチ元監督のフランス語通訳を務めたことでも知られている。いつ、どこで、これほどの複数言語を習得したのか。なぜ、サッカー界の通訳として、クラブと代表で長く重用されているのか――。