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名セッター古藤千鶴、36歳での引退。
黄金時代を築いた久光製薬への愛。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byMatsuo/AFLO SPORT
posted2019/08/07 11:00
久光製薬スプリングスで10年間プレーした古藤。今年6月で現役を引退した。
セッターの世代交代は難しいから。
いちアスリートとしては、「この歳まで第一線で出続けさせてもらって、頼ってもらえるのはありがたいし、それが自分の役割」とやりがいを感じていた。
その反面、チームの将来を考えると、「これじゃあまずいんじゃないか」という思いが年々強くなった。
セッターの世代交代は難しい。勝ち続けているチームはなおさらだ。特に久光製薬は、主力メンバーが2012年のリーグ優勝時からあまり変わっていない。
長岡望悠は過去2シーズン、怪我やイタリア移籍でチームを離れたが、新鍋理沙、岩坂名奈、石井優希という軸は不動で、古藤とスパイカー陣の間には、長い年月をかけて築き上げられた、勝つためのあうんの呼吸があった。どんなに技術の優れたセッターでも、そこに取って代わることは容易くない。スタッフ陣も、古藤がいるとどうしても頼ってしまう。
本来なら、他のセッターが独り立ちして、自身は控えの立場で支えるという形になってから引退したいと考えていた。
「長岡の復帰の場に自分もいたい」
それにもう1つ。昨年12月にイタリア・セリエAで左膝前十字靭帯損傷の怪我を負って帰国した長岡のことも心残りだった。
「長岡の復帰の場に、自分もいたいなというのはすごく思っていました。でも、自分が居続けることで、他のセッターの出番がなくなってしまう。ここが区切り時なのかなと、(引退を)決めました」
最後と決めて臨んだ2018/19 V.LEAGUE DIVISION1の東レアローズとのファイナル第2戦は、思いがあふれた。
「今思えば、雑念でしかなかったんですけど……。この場にこうやって、このメンバーで立てるのは最後、みんなに対してやれることが最後になるから、みんながいいパフォーマンスをできるように、という思いでコートに立ったんですけど、その感情が悪く作用してしまいました。
結局はシンプルに、勝てばいいのに、思いが先行してしまって、プレーに勢いがなく、結果としてみんなの良さも引き出せていませんでした」