炎の一筆入魂BACK NUMBER
これまでも、これからもずっと不器用。
広島のエース大瀬良大地、8勝目の光。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2019/08/05 18:00
ひさびさの勝利に、女房役・會澤翼と握手をする大瀬良大地。無四球完封勝ちでの、貴重な8勝目となった。
「アツさん(會澤)が導いてくれました」
もともとは横変化主体の投球だが、そこに縦変化の軌道が増して、打者を戸惑わせた。
最大のピンチとなった2点リードの4回。1死一、二塁では福留孝介に対し、3球目フォークで追い込み、中飛に打ち取った勝負球もフォーク。7回再び対戦した福留にフォーク2球を含めた4球で追い込むと、最後は外角低めに直球。見逃し三振を奪った。
型にこだわらず、求めた勝利を手にした大瀬良に、緒方孝市監督も賛辞を惜しまなかった。
「今日はもう大地のピッチング、エースのピッチングに尽きる。最後まで力むことなく丁寧に打たせて取った。バッテリーの完封。ゲームを締めてくれた」
これだけフォークを多投した試合は今季だけでなく、通算163試合目でも初と言える。変わり身を見せた124球について、後日、本人は「いい投球ができたなという感覚はなかった。こういう形もあると、アツさん(會澤)が導いてくれました」と振り返った。
エースの自覚が大瀬良を変えた!
大瀬良の代名詞といえばカットボール。
力強い直球で押し、直球と同じ軌道から打者の手元でキュッと曲がるカットボールで詰まらせる。6勝目を挙げた6月5日西武戦では全122球中、100球が直球とカットボールの2球種だったほどで、最大の武器と言える。
しかし、絶対的な球種にもこだわらないのが、今季の大瀬良でもある。
エースの自覚がマウンドでの立ち居振る舞いを変えた。今季はマウンドでピンチをしのいで大きくガッツポーズすることもなければ、叫ぶこともしない。笑顔を見せることも大きく減った。
チームを背中で引っ張り、勝利に導く——エースとはそういうもの。1試合を通じての状況に応じた力の出し入れをこなし、無理な力勝負はしない。冷徹なまでに勝利を求める姿がある。
だからこそ、精度を落とした得意球にも固執しない。
5試合続けて勝てなかった結果も受け入れた。ただ、勝つために。結果、完封という最高の結果をもたらし、「新たな発見があった」と予想以上の収穫もあった。