炎の一筆入魂BACK NUMBER
これまでも、これからもずっと不器用。
広島のエース大瀬良大地、8勝目の光。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2019/08/05 18:00
ひさびさの勝利に、女房役・會澤翼と握手をする大瀬良大地。無四球完封勝ちでの、貴重な8勝目となった。
「これまでもずっと不器用なりに……」
これまでも、苦心の末に成功をつかんできた。
プロ入り1年目に新人王を獲得しながら、翌年から2シーズン続けて中継ぎを経験。先発復帰した'17年に10勝を挙げるも確かな手応えはなく、オフにフォームや意識を変えた。紆余曲折をへて、今がある。
この日多投したフォークも一朝一夕でマスターした球種ではない。今季使用するスライダーも改良を加えたもので、得意球カットボールも進化している。
「これまでもずっと不器用なりにいろんな人に握りや感覚を聞きながら、いっぱい練習してきました。いくつも違う感覚を感じながらも、それらをすり合わせながらようやくいい方向にはまってくれた」
迷いながら、いろんな人に話を聞きながら、失敗しながらも、頭の中に留めておく。不器用は短所であると同時に、長所にもなり得るものなのかもしれない。大瀬良は「不器用」を自認するからこそ、根気強さと執念がある。
カットボールだけでなく、スライダー、カーブ、フォークという脇を固める球種の精度向上が昨季からの安定感を支える。井生崇光スコアラーも「今年は全球種いい。緩急が使えているから直球とカットボールも生きている」とうなずく。
「失敗は成功のもと」というが、そこにははっきりとした意思と意欲がなければいけない。
エースとなっても、不器用に変わりはない。
大瀬良は今ももがきながら、前に進んでいる。まだ投手として未完成なのかもしれないが、それは同時に伸びしろもあるということを示している。
この苦心の先にこそ、実りがある。