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田中陽子「サッカーも合う気がする」。
違和感を乗り越え、笑顔でスペインへ。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byYuki Suenaga
posted2019/08/04 11:30
スペイン1部へ移籍を決断した田中陽子。これまでの経験を糧に夢だった海外でのプレーに挑む。
「あまり落ち込まないんですよ」
ノジマステラに在籍した4年半の間に、なでしこジャパンに定着することはできなかった。しかし、選手として着実な成長を遂げてきたことを確信している。
「どんな環境でも頑張れば絶対にうまくなれると思っているし、たとえ代表に選ばれなくても、自分自身の成長は感じることができました。というか……だいたいのことは結果的にうまくいくと思っているので、心配しなくても大丈夫です(笑)。私って、あまり落ち込まないんですよ。だって、何があっても“この世の終わり”じゃないから」
目下の目標は「ビッグクラブでプレーして、チャンピオンズリーグで優勝する」こと。女子サッカー界の盛り上がり、エンターテインメント・コンテンツとしての価値は欧米では急上昇しており、アスリートとしての“ドリーム”は間違いなく向こうにある。つまり、男子サッカーと変わらないマーケットがあるから、可能性は無限大だ。
自信はある。実は、その根拠もはっきりしている。
「自分は技術ではなく身体の調子に左右されるタイプで、コンディションがいい時は“何でもできる”。その感覚を安定させることがずっと課題でした。最近は“何でもできる”と感じる回数が増えて、感覚が安定してきたんです。疲労回復の感触もすごくよくて、自分の身体に対する違和感がなくなってきた」
苦しめられたきた“違和感”。
違和感——。
実はその感覚に、田中はずっと苦しめられてきた。原因は、今から10年前、高校1年の時に負った第5中足骨の疲労骨折にある。
「手術中にヤケドをしてしまって、皮膚移植をしました。その治療で左足をずっと固定していたら、身体の感覚がおかしくなってしまったみたいで……。ひどい肩こりに悩まされたり、一時は日常生活に影響が出てしてしまうくらいの状態でした。20歳くらいの頃からずっとそうで、まともにサッカーをやれる身体じゃなくて……。改善するためにいろいろなことに取り組んできたので、キツかったけど勉強になりました」
19歳で世間の注目を浴びた直後、20歳で身体の異変を感じ始めてから、ずっとそれと向き合ってきた。その間に社会人としての経験を積み、サッカー選手として、人間としての厚みを増して、機が熟すのを待った。
「今は本当に良くなりました。身体の感覚がすごく良くて、そう感じることができているから、スペインに行くことを決めたんです」