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田中陽子「サッカーも合う気がする」。
違和感を乗り越え、笑顔でスペインへ。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byYuki Suenaga
posted2019/08/04 11:30
スペイン1部へ移籍を決断した田中陽子。これまでの経験を糧に夢だった海外でのプレーに挑む。
小学生の時に見たカカのプレー。
実は、海外でプレーすることに対する憧れは、かねてから胸に秘めていた。
「日本で言うサッカーの“うまさ”と海外で言うサッカーの“うまさ”って、ちょっと違う気がするんです。自分は小学生の時にブラジル代表だったカカのDVDを観てそれに気づいて、特にスペインのサッカーが好きになりました。自分のサッカーも合う気がしていたから、いつかプレーしてみたいと思っていました」
「シャビとイニエスタを足して2で割ったような」と形容されたことある田中のプレースタイルとスペインの相性の良さは確かに理解できる。彼女はニコニコとして言葉を続けた。
「サッカーは合いそうだし、ウエルバはスペインでも南のほうだから気候もいいし、たぶん人も温かいですよね(笑)。そういう感じで全体的にポジティブなイメージがあるから、環境のことで迷うことはありませんでした。寒いところはちょっと難しいかもしれません。自分の場合、やっぱり生活が快適じゃないとサッカーに集中できなくなってしまうので」
天真爛漫なキャラクターの真骨頂だ。加えて「超ポジティブ人間」を自負する彼女だから、もしかしたら海外のほうが合うかもしれない。彼女を知る人なら、そう思う人もきっと少なくないだろう。
ノジマステラでは事務や営業の仕事も。
日本でのキャリアは、19歳当時に向けられた期待に応えるものではなかったかもしれない。
鳴り物入りで加入した当時の“最強軍団”INAC神戸では定位置を掴めず、2015年には当時2部リーグに在籍したノジマステラへの移籍を発表した。“都落ち”と解釈する人も確かにいた。それでも、彼女は“自分らしさ”を貫いた。
「『なんで2部なの?』とか『うまくいくわけない』と言われたこともありました。でも、自分は『きっとうまくいく』と思っていました。私、いつもそんな感じなんですよ。思いどおりにいかなくても『それはそれで』と思うだけ。自分が『いい』と思ったことをすることが、あまり怖くないんです」
ノジマステラでは、クラブの社員として事務や営業の仕事もこなす生活を送っていた。仕事とサッカーを両立させる生活は、彼女を人として成長させた。
「すごくありがたかったです。社会人として働くことの意味を知れたし、電話の受け答えもちゃんとできるようになりましたから(笑)。周りの人たちからは『大人になった』と言われるようになったので、自分にとってすごくいい経験になった。
もちろん、サッカーにもプラスでした。2部リーグには2部リーグの難しさがあって、身体の当たりは1部より強いくらいだし、守備はみんな必死。ノジマステラはその中でパスをつなぐサッカーをやろうとしていたから、やり甲斐を感じていました」