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ドラフト候補を育てた広島の無名校。
「育てることと夏に勝つことは違う」 

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高木遊

高木遊Yu Takagi

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posted2019/07/31 08:00

ドラフト候補を育てた広島の無名校。「育てることと夏に勝つことは違う」<Number Web> photograph by Yu Takagi

175センチと小柄ながらMAX152キロを誇る谷岡楓太。武田高校で培った3年間を糧にプロを目指す。

強豪校相手に好投、スカウトも注目。

 そんな独自のスタイルで運営や強化をしてきたチームと谷岡だったが、強豪校やその球児たちと同じく「甲子園出場」は、やはり大きな目標の1つだった。今春こそ股関節の違和感で登板を回避したが、5月以降は復調。

 6月にはNPB4球団のスカウトが見つめる前で、昨夏の甲子園出場校・近大付(大阪)を相手に8回無安打14奪三振に抑えた。最速は152キロを計測するまでとなり、ナックルカーブなどの変化球も冴えた。

 万全の状態で今夏は臨み、自らの高評価とチームの甲子園切符を掴み取るつもりだった。それだけに沼田高校戦の落胆も大きかった。

「僕、絶対プロになります!」

 敗退から数日後、岡嵜監督は谷岡とともに高島氏のジムに赴いた。そこに偶然いたのが、カナダの高校でプレーし今秋からはアメリカの大学でプレーをする左腕・八尋大誠だった。海外留学し「甲子園を目指さない」という選択をした八尋は、帰国中に観た高校野球について純粋な感想を述べた。

「こないだ高校野球観に行ったんだけど、なんでみんなあんなに泣いてるの? まだ野球は続くのに」

 谷岡は頷き「ホントそうですよね」と切り返した。すると岡嵜はすかさず「いやお前、泣いとったやん」と突っ込むと、谷岡にやっと笑顔が戻った。

 谷岡は吹っ切れたかのように「僕、絶対プロになります! 夏に158キロを出します」と言って、再び目の色を変えてトレーニングに励む谷岡の姿があった。

【次ページ】 甲子園は“途中”になきゃいけない。

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