令和の野球探訪BACK NUMBER
ドラフト候補を育てた広島の無名校。
「育てることと夏に勝つことは違う」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2019/07/31 08:00
175センチと小柄ながらMAX152キロを誇る谷岡楓太。武田高校で培った3年間を糧にプロを目指す。
練習内容は面談を通じて各自で選択。
「すぐ練習終わっちゃいますけど、いいですか?」
岡嵜監督からそう告げられていたが、練習は本当にあっという間に終わった。だが、それよりも印象的だったのは練習のスタイルだ。谷岡も語ったように全体でのランニングもなければシートノックもない。そもそも「全員で同じ」練習や行動する時間は練習を終える際の挨拶や連絡事項を伝える円陣以外何もなかった。
部員ひとりひとりが練習コードと呼ばれる表の中からメニューを選択し、指導陣と面談を進めながら決めている。「今、何が必要なのか」を自ら考え、そして指導陣からの助言も受けることで、意図を明確にさせた短時間の練習は漠然とした長時間の練習よりも濃く、身になっていく。
その中で谷岡は特に「こう思うので、今はこうしたい。違ったら言ってください」と自らの感覚を上手く言葉にしながら指導陣とコミュニケーションを取り自らを高めた。そして「しぶとさが谷岡の売り」と岡嵜監督が話すように、やると決めたらとことんやり抜くことができた。
投げさせなかった岡嵜監督の方針
入学直後、岡嵜監督が谷岡の走り方を見て「怪我するだろうな」と感じ、一切投球練習を禁じた。トレーナーを務める高島誠氏の考案した股割りメソッドを10セットひたすら行った。
「投げさせてください」と時には涙ながらに懇願する谷岡に岡嵜監督は「(股割りで)頭が地面につくようになったら投球をしてもいい」と条件を出すと、6月にはつくようにして見せた。そうして念願のマウンドに立つと、中学時代の最速125キロを大幅に更新する135キロを計測。これで自信とトレーニングへの信頼を深く得た谷岡はより貪欲になった。
「成長し続けた3年間でした」と岡嵜監督は谷岡の愚直な姿勢を称えた。