プロ野球亭日乗BACK NUMBER
プロ野球「中学生ドラフト」のメリット。
鈴木スポーツ庁長官の提言から考える。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2019/07/15 12:00
スポーツを通じて、子どもたちの未来を常に考えている鈴木大地長官。自身の経験を生かした「アスリート・ファースト」の思考ができる貴重な政治家。
「甲子園を諦めてプロの三軍」という選択。
だが、その話をしたプロ野球の関係者は、そんな議論の後に、厳しい顔でこうも語った。
「いくら将来に結びつくと説明しても、甲子園を諦めてプロの三軍で練習をするという価値がどれだけ受け入れられるか……そこがなかなか難しい」
彼が第一に挙げたのは、日本人の中での高校野球、甲子園大会という文化の根強さだった。
そして2番目はやはり、育成の難しさだ。
「阪神の辻本賢人投手(米国マター・デイ高校中退、15歳の時にドラフト8巡目で指名されて阪神に入団)もそうですが、やはりプロの中で15、16歳前後の選手を単独で育成する難しさはあると思う」
辻本投手のケースは、プロ入り後、ケガの連続で一軍登板がないままに2009年に退団してしまった――というものだ。プロで育成してももちろん選手、特に投手の場合はケガのリスクは常につきまとう。いくら球数管理をしても、リスクを0にすることは不可能で、甲子園という夢を捨ててまでチャレンジする選手が出てくるのかどうか――ということが課題として残る。
「第二の柳川事件」となってしまうのか!?
そして3番目、これが最も大きな問題だ、とその関係者は指摘した。
「もし我々が本格的に若年層の選手に手をつけたら、アマチュア球界が黙っていない。第二の柳川事件を引き起こし、プロアマの対立に発展しかねない可能性がある」
柳川事件とは1961年(昭和36年)の中日による日本生命・柳川福三外野手の引き抜きに端を発したプロ・アマの対立で、その後、長きに渡るプロアマ間の交流断絶の発端となった出来事だ。
「今はそこまで組織的な対立に発展する可能性は少ないかもしれないが、もし、プロ側が本格的に中学生の指名に乗り出したら、高校球界の反発は必至でしょう。
そうなると選手の最大の供給源である高校野球からウチのチームは拒絶されることになる。
高校球界と対立すればチームのドラフト戦略は成り立たない。そういう事態を覚悟して、中学生をドラフト指名することは、なかなか球団としては手がつけづらいですね」
日本のアマチュア球界とは無関係のメジャー球団ならできることだが、持ちつ持たれつの関係にある日本のプロアマ間では、プロ球団が中学生を獲得することはまだまだ難しいというのが、その関係者の結論だった。