スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
大谷翔平とサイクルの狼煙。
後半戦、さらなる打棒爆発に期待大。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byAFLO
posted2019/06/22 16:30
MLB日本人初のサイクルヒットを達成し、チームメイトの祝福を受ける大谷翔平。
延べ327人のリストを見てみると。
サイクルを達成できる選手は、当然のことながら、安打製造能力とパワーと走力の3つを備えている。延べ327人のリストを見ていても、このケースが多い。
達成した選手の全員が大打者とはいわないが、達成した大打者は多い。ジョージ・シスラー、チャック・クライン、ルー・ゲーリッグ、ジョー・ディマジオ、ジョージ・ブレットらは、それぞれ2度達成している。
一方で、タイ・カッブ、ベーブ・ルース、ウィリー・メイズ、ハンク・アーロン、イチローといった大物の名が見当たらない。ジミー・フォックスやラルフ・カイナーなどの長距離砲、あるいはロッド・カルーやルー・ブロックというスピードスターが記録を達成しているのに、皮肉な話だ。もっとも、イチローに先立って安打王の名をほしいままにしたトニー・グウィンやウェイド・ボッグスも、この記録とは縁がなかった。
投手で達成したのはあまりに偉大。
それよりも驚嘆すべきは、大谷翔平がもともとは投手であることだ。今季は全試合DH登録だが、投手でサイクルを達成したのは、1894年のトム・パロット(レッズ)をはじめ、指を折って数えられる程度しかいない。1900年以降の近代野球では、もちろん大谷が初めてだ。
これはやはり、驚くべき事実ではないか。サイクル(10塁打)よりも1試合3本塁打(12塁打)のほうが高価値だとする意見は昔からよく聞かれるが、こちらもちょっと味気ない。
妙な喩えで恐縮だが、前菜やデザートのついたフルコースを食べるよりもステーキ3人前を食べるほうが満足できる、と主張しているように聞こえてしまうのだ。花より団子というか、味よりカロリーという発想は、あまり優雅ではない。ここはやはり、大谷のオールラウンドな能力の高さに眼を向けたいところだ。
それにしても、手術後のリハビリを経て大谷が戦列に復帰したのは5月7日のことだ。以後、約40日。わずか35試合(6月17日現在)に出ただけで、ここまで実戦の勘を取り戻してきたのは、さすがというほかない。