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1勝1敗、次の勝負に五輪が懸かる。
伊調馨と川井梨紗子の最終決着。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byMiki Sano
posted2019/06/21 11:30
五輪女王同士のリターンマッチは前回伊調に敗れた川井に軍配。世界選手権代表をかけたプレーオフは7月6日に行われる。
前回は川井が受けて立つ立場だった。
前回の対戦は伊調が長期休養から本格復帰して間もないタイミングだった。過去の実績、対戦成績ともに伊調が上回っていたとはいえ、リオ五輪以降の日本女子を牽引してきたのは川井であり、受けて立つ立場にあったのも川井だった。
予選リーグで勝った時も、残り10秒で逆転負けを喫した決勝での再戦も動きは硬く、技によるポイントは挙げられず膠着したレスリングから抜け出せなかった。
その後悔を踏まえての再戦。振り絞った勇気は第2ピリオドに実った。
開始直後にタックルで伊調の足をつかまえ、その後も再びタックルが決まった。前回の対戦では足をとらえたものの、バランスの良い伊調を崩せずに場外ポイントの1点しか奪えなかった。だが今回はテークダウンからローリングも決めて、この時点でリードを5-0まで広げた。
伊調の心に生まれてしまった「余裕」。
12月の大会で先勝したことは百戦錬磨の伊調であっても心理面に微妙な影響を及ぼしていた。
伊調はこの日、川井と組んだ瞬間にまず相手の圧力、気迫を感じたという。「梨紗子も並じゃない気持ちで臨んでいる」。気圧されたことで主導権を握られ、少しずつ後手に回った。「自分の勇気が足りなかった。ひるまずに前に出ていれば変わっていたかもしれない」
以前なら足を触らせてもポイントを取り切らせなかった女王が、第2ピリオドにタックルから失点を喫した。終盤は1点差まで詰め寄り、あと数秒あれば逆転という見せ場も作った。だが「後半は負けている方は攻めるしかない。前半にどっちが流れをつかむかが大事」と最後の逆襲に関して、この日は評価対象にはしなかった。
「自分には1回アドバンテージがあった。負けられないのは梨紗子。その気持ちの余裕が出ちゃったのかな。今日は梨紗子の方が世界選手権に行くという気持ちが強かった」
伊調は本音を隠すこともなく、淡々と敗戦を分析した。