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「行儀のよくないプロレスラー」宣言!
棚橋弘至が味わった復帰戦の黒星。
posted2019/06/06 17:30
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
棚橋弘至の2カ月ぶりの復帰戦は黒星だった。
「万全のコンディション」(棚橋)でジェイ・ホワイトとの一戦に臨んだはずの棚橋だったが、その体が満身創痍であることをさらけ出すことになった。
6月5日、両国国技館。棚橋とホワイトのシングルマッチは第6試合に組まれた。「棚橋弘至復帰戦」というサブタイトルには棚橋の勝利を期待させるものがある。
国技館に響いた「タナハシ!」コールは棚橋の耳にも十分に届いていたが、ハイフライフローがさく裂することはなかった。
「行儀がよくないから列の後ろには並ばない。プロレスラーはそんな行儀のいいもんじゃない」とホワイトのIWGP挑戦の順番についての挑発にそううそぶいていた棚橋は、ピンチに陥るとホワイトに急所打ちまで繰り出して、行儀のよくない棚橋を披露した。
大の字になって倒れたままの棚橋。
棚橋は「考えるプロレス」を実行していた。
左ヒジを攻められて、左手に力が入らなくなると、ホワイトの足を両足で挟んでドラゴンスクリューにもっていった。これはホワイトにとっても想定外で、非常に効果的だったが、最後はテキサス・クローバー・ホールドに入るところでホワイトに切り返されて首固めで丸め込まれてしまった。
スリーカウントを聞いて棚橋は悔しがった。しばらくの間、棚橋はキャンバスに大の字になって立ち上がれなかったほどだ。
背中から伝わってくるキャンバスの感触のなかで、棚橋は国技館の天井に何を見ていたのだろう。
「プロレスラーになった時も、黒星発進。令和のデビュー戦も黒星発進。オレらしい」
棚橋は国技館の支度部屋前の廊下で、そう強がって見せたが、かがみこむように下を向いたその目に涙がにじんでいるようにも見えた。
「ファンの期待感っていうは長くは続かない。今日の両国の応援が、ラスト・チャンスだったのかもしれない」
棚橋はそう言って無念さをかみしめた。